日本のカトリック教会は1日、「性虐待被害者のための祈りと償いの日」を迎えた。聖職者による性的虐待が世界的に明るみに出る中、ローマ教皇フランシスコが2016年に各国の司教団に制定を指示したもので、日本では四旬節第2金曜日とされ、今年は1日がその日に当たる。
日本カトリック司教協議会会長の菊地功大司教(東京大司教区)はこの日に先立ち、日本の信者に向けた呼びかけの文書を公表。率先して人間の尊厳を守り、教会の一致を推進するべき聖職者や霊的な指導者の中に、性的虐待という「人間の尊厳を辱め蹂躙(じゅうりん)する行為」を行った人が存在することは事実と認め、謝罪した。
また、あたかも被害者に責任があるかのような言動で、さらなる被害の拡大が生じた事例も見受けられるとし、いわゆる2次加害にも言及。こうした行為についても謝罪し、「責任は加害者にあるのは当然です」と述べた。
その上で、教皇フランシスコが2018年に公表した「神の民にあてた手紙」で、性的虐待問題について語った次の箇所を引用した。
「(性的虐待は)苦痛と無力感を伴う根深い傷を、ほかでもなく被害者に、しかしそればかりか家族と共同体全体に負わせる犯罪です。起きてしまったことに鑑みれば、謝罪と、与えた被害を償う努力が、十分になることなど決してありません。今後について考えれば、このような事態が二度と繰り返されないようにするだけでなく、その隠蔽(いんぺい)や存続の余地を与えない文化を作り出す努力をするほかありません」
菊地大司教は、日本のカトリック教会のこれまでの取り組みについて語り、「教区や修道会が、自らの聖職者や霊的な指導者の言動に責任をもって対応する態勢を整えつつあります」と説明。最後に「あらためて、無関心や隠蔽も含め、教会の罪を心から謝罪いたします」と述べ、被害者の癒やしのために祈るとともに、聖職者がふさわしい務めを果たせるように祈るよう求めた。
カトリック教会の聖職者による性的虐待問題は、米ボストンの地元紙が2002年にスクープ。70人以上の聖職者が信者の子どもたちに対して性的虐待を行い、教会が組織ぐるみで隠蔽(いんぺい)していたことを明らかにし、それがきっかけとなって世界各地で明るみになっていった。
日本のカトリック教会では、02年に司教団が、12年には「子どもと女性の権利擁護のためのデスク」が調査を実施。20年には、その後の追加調査なども含めて結果が公表され、聖職者から性的虐待を受けたという訴えは16件あったことが分かっている(関連記事:日本のカトリック聖職者による児童性的虐待、訴えは16件 司教協議会が調査結果を発表)。
また、21年に制定された「未成年者と弱い立場におかれている成人の保護のためのガイドライン」に基づき、昨年9月には初めて、22年度(22年4月〜23年3月)における性的虐待に関する申立件数を公表。日本の全16教区(現在は15教区)のうち4教区で、5件の申し立てがあったことを明らかにしている(関連記事:日本のカトリック教会、2022年度の性虐待の申し立ては4教区で5件)。
一方、2次加害を巡っては、長崎大司教区の男性司祭から性的被害を受けた女性が、当時同大司教区トップで司教協議会会長の立場にあった髙見三明大司教(現名誉大司教)の発言により、心的外傷後ストレス障害(PTSD)が悪化したとして提訴。22年に、髙見大司教の発言は「注意義務に違反する」とし、同大司教区に110万円の損害賠償を命じる判決が出ている。
また昨年11月には、当時通っていた長崎市内の教会の外国人司祭から性的被害を受けたとして、東京都在住の60代の女性看護師が、司祭の所属していたカトリック修道会「神言修道会」(名古屋市)を提訴。朝日新聞の報道によると、神言修道会は司祭本人が加害行為を否認しているとし、代理人弁護士と相談しながら訴訟を進めていくとしている。