カトリック長崎大司教区の40代の男性司祭から受けた性被害をめぐり、髙見三明大司教の発言で心的外傷後ストレス障害(PTSD)が悪化したとして、長崎県内の女性信徒が550万円の損害賠償を求めていた訴訟で、長崎地裁は22日、大司教区に110万円を支払うよう命じる判決を言い渡した。共同通信などが伝えた。
女性は2018年5月、教会施設で司祭に体を触られるなどの性被害を受けた。同年の翌6月ごろに大司教区の人権相談窓口に相談。大司教区は司祭からも話を聞いた上で被害があったと判断し、同年秋ごろには司祭を聖職停止処分にしていた。女性は被害後、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症。大司教区は19年8月、司祭のわいせつ行為を認め、賠償金を支払うことで示談が成立していた。
司祭は20年2月、強制わいせつ容疑で書類送検されるが、同年4月に不起訴となる。その後、髙見大司教が内部会議で、「『被害者』と言えば加害が成立したとの誤解を招くので、『被害を受けたと思っている人』など、別の表現が望ましい」と発言。この発言が記載された議事録が司祭らに配布され、信徒も閲覧できる状況であったことから、女性はPTSDの症状が悪化したという。
長崎放送によると、古川大吾裁判長は判決の言い渡しで、「髙見大司教の発言は性被害自体が存在しなかった、またはその可能性がある旨の言動であり、注意義務に違反する」と認定。「組織のトップの発言で、原告が被った精神的苦痛は多大」とした。
21年11月に行われた訴訟の口頭弁論では、髙見大司教が尋問に出廷し、自身の発言について述べている。長崎新聞の当時の報道によると、司祭が不起訴となったことから「犯罪として成立していないので、言葉を区別した方がいい」と知人記者から助言を受けたと説明。「被害を受けたと思っている人」という表現は、「被害を受けたと第三者が思っている人」という意味だったとし、「女性が被害を受けたと思い込んでいる」という意味ではなかったなどと主張していた。しかし、判決を伝える同紙の報道によると、「知人記者の発言を引用したにとどまる」とした大司教区の主張は「単なる紹介・引用とはいえない」として退けられた。
同紙によると、女性は代理人弁護士を通じて、「私の思いが法により理解され安堵(あんど)した。聖職者であっても社会で生活する一人の人間。逸脱した言動や隠蔽(いんぺい)体質を見直してほしい」とするコメントを発表。大司教区は、判決を精査して対応を検討するとしている。
判決翌日の23日には、大司教区の司教座聖堂である浦上教会(長崎市)で、中村倫明(みちあき)新大司教の着座式が行われ、髙見大司教は引退し、名誉大司教となった。18年ぶりの大司教交代だが、これは75歳になった髙見大司教の定年によるもので、昨年12月末に発表されていた。
続報:長崎新聞のその後の報道によると、カトリック長崎大司教区は25日、控訴しないことを発表。「法的な知識不足や表現の不正確性により、原告に意図せぬ大きな誤解を生じさせてしまい、非常に心苦しく思っている」とし、「主張が認められなかったことは残念だが、原告にこれ以上負担を強いることは本意ではない」とした。