「カトリック神父からの性虐待を許さない会」主催のオンライン集会が13日に開催され、カトリック聖職者による性暴力被害をめぐり国内初の訴訟を起こした仙台市の鈴木ハルミさん(67)らが参加した。鈴木さんは「多くの被害者に勇気を持ってもらいたかった」「失った自分の尊厳を取り戻したかった」と訴訟に踏み切った経緯を説明。15日の第1回口頭弁論で朗読した意見陳述書の原案も読み上げるなどした。
鈴木さんが提訴したのは今年9月末。カトリック仙台司教区の男性神父から約40年前に性的被害を受けたとして、同教区と男性神父、また2次被害を加えたとする仙台教区の元司教に対し、計5100万円の損害賠償を求めている。当時24歳だった鈴木さんは、夫の家庭内暴力(DV)などの悩みを抱えており、宮城県内の教会に赴任してきたばかりの神父に相談。神父を信頼して数回相談する中で被害に遭った。
集会では冒頭、「多くの被害者に勇気を持ってもらいたかった。純粋無垢な子どもたちを守るため、警鐘を鳴らしたかった」とコメント。提訴した日には大きな脱力感があったと言い、「それほど提訴に向けて全力で生き抜いてきたのだと思う」「ここで終わったらいけないが、9割方役割を果たし終えたという思い」と振り返った。
被害後「自分が教会を汚した」と罪の意識にさいなまれ、約40年にわたって苦しんできた鈴木さん。過去の記憶から逃れるように、3人の子どもを育てながら昼間は猛烈に働き、夜は看護学校に通ってトップの成績で卒業するなどした。一方で、苦しみからの逃避は別のベクトルにも向かった。アルコール依存症やギャンブル依存症に陥り、自己破産や離婚を数度経験。「綱渡りのような生活」を繰り返し、文字通り「坂を転がり落ちるような人生」だったと振り返る。
しかし2015年、主治医の精神科医に打ち明け「あなたは悪くない」と言われたことで、自ら望んだ行為ではなく、被害に遭ったことを初めて認識した。翌16年にはカトリック中央協議会に被害を申告。第三者委員会による調査が行われ、調査報告は「申告行為は存在した可能性が高い」としたものの、神父の責任は問われなかった。
提訴後、被告側の弁護士から届いた文書にも、この調査報告に基づいた文言があったという。「予想はしていても、自分が信頼していた共同体の代弁者から現実に言われるのは違う。(教会を)何十年も信頼して希望をつないで生きてきた自分にとって、送られてきた文字を見るとやはり痛かった」と語った。
この年は、カトリック聖職者による性虐待問題を取り上げた映画「スポットライト」が日本で公開された年でもある。「世界にたくさん自分と同じ人がいることを知ったとき、それは残酷で悲しいことではありますが、希望の光が見えてきました」。映画を観て、聖職者の性被害者(サバイバー)による世界的ネットワーク「SNAP(スナップ)」を知った鈴木さんは、SNAPの創設者から直接サポートを受けて回復の道をたどり、現在では鈴木さん自身もSNAPの活動を行っている。
一方、提訴に至るまでにはさまざまな困難があった。まず時効の壁がある。また日本の現在の法制度では、性被害に対する賠償額は海外に比べ少額で、弁護士からは提訴以外の方法を助言されるなどした。
しかし、「真実がねじ曲げられ、エンドレスな二次被害を受け続けているという感覚があった」と鈴木さん。第三者委員会の調査報告を受けに教会を訪れた際には、信頼していた仙台教区の元司教から「合意の上でやった」などと言われ、深い傷を負った。今年2月にも教会側と直接交渉をしたが「大きな距離」があったという。
「加害者は救済者にはなれないのだと感じた。『あなたを助けたいから会いたい』と言うが、それは残酷で残念な結果だった。加害者は加害者で、加害者に直接の救済案や癒やしを求めるのは無理。加害者が救済者を演じることは茶番でしかない」
「信仰と犯罪は分けなければだめ」。鈴木さんはそう言い、最後には「(SNAPの)先輩たちが残したレガシーを後々のサバイバーたちに残したい。不幸な人生を嘆きながら不幸な人生で終わらせないでほしい。すべての人がサバイバーに正しい対応ができる、より安全な日本社会の構築に貢献できたらと願っている」と語り、15日の第1回口頭弁論で朗読した意見陳述書の原案を読み上げた。
集会では、鈴木さんによる報告の他、別のカトリック神父から性虐待を受けた竹中勝美さんも、「カトリック神父からの性虐待を許さない会」の設立経緯や自身の性被害について語った。また、性暴力被害に詳しい精神科医で臨床心理士の白川美也子さんが、「宗教者から受けた性トラウマの被害の深刻さとその回復について」と題して講演した。