日本のカトリック聖職者による未成年者に対する性的虐待について、日本カトリック司教協議会は7日、カトリック中央協議会の公式サイトで調査結果を明らかにした。司教協議会会長の髙見三明大司教(長崎大司教区)は、「日本のカトリック教会における責任者として、被害者と関係者の方々に深くお詫びいたします」とした上で、「この調査報告には、教会が抱えている問題、そして今後取り組まなければならない課題が多く含まれており、引き続き、真の実態把握への努力を続けていく所存です。何よりも、私たちはこの結果を真摯(しんし)に受け止め、このようなことを二度と起こさないよう再発防止に全力を尽くす覚悟です」と述べた。
日本のカトリック教会では、2002年に司教団が、12年には「子どもと女性の権利擁護のためのデスク」が調査を行っている。しかし、より正確な調査が必要であるとし、19年6月から10月にかけて司教団が再調査を実施。その後も追加の調査を行っていた。
今回の調査は日本のカトリック教会全16教区の司教、40の男子修道会・宣教会、77の女子修道会・宣教会を対象にアンケートの形式で行い、全16教区、全40の男子修道会・宣教会、55の女子修道会・宣教会から回答を得た。その結果、「聖職者より性虐待を受けた」とされる訴えは16件報告された。ただし、個々の教区、修道会・宣教会の名前と件数については、被害者個人の特定につながるとの理由で公表していない。
訴えのうち、不明な点が多い事例については再調査を求めたものの、1)事件当初より長い年月を経ており、幼少期に性的虐待を受けた事実以外特定ができない、2)特定できたとしても、現時点で被害者ならびに被疑者が高齢であり、病気や認知症を患っている、3)被疑者が死亡している、などの理由で確認が困難だったとしている。この点については、「事例の報告と引き継ぎに関する取り決めがなされていなかったことに起因する」と指摘した。
訴えのあった事例を起きた年代と被害者の性別で見ると、1950年代に1件(女子)、60年代に5件(女子1件、男子3件、不明1件)、70年代に1件(男子)、90年代に3件(女子2件、男子1件)、2000年代に3件(女子1件、男子1件、不明1件)、10年代に2件(女子1件、男子1件)、被害はあったが詳細不明が1件。また、被害当時の年齢は、6歳未満が1件、6〜12歳が5件、13〜17歳が6件、不明が4件だった。
被害にあってから訴えるまでの期間については、最も早くて半年以内、10〜30年後が最も多く、中には50〜70年の歳月を経て重い口を開いたという事例もあった。多くの場合は、家族や信頼のおける教会関係者からの相談によってか、自らが大人になり、消し難い苦悩として教区または修道会・宣教会に訴えた形だった。
対応については、多くの事例で、訴えた被害者本人もしくは関係者と教区司教、または修道会・宣教会の長上との話し合いが持たれていた。また、被疑者が加害を認めた場合は、被害者の意向に沿う形の対応を行っており、その多くで示談または和解という形が取られていた。一方で、事実確認の段階で被疑者が否認や黙秘をしている場合は、教区司教や長上による謝罪で終わるなど、消極的な対応事例も少なくなかったと指摘した。
加害聖職者の所属については、教区司祭が7件(日本人)、修道会・宣教会司祭が8件(外国籍7件、日本人1件)、不明1件(外国籍)。加害の認否については、認めた事例が4件、否認が5件、不明7件だった。否認した事例のうち、第三者委員会による調査が入ったのは1件、教会裁判にかけられたのも1件のみにとどまり、いずれも黙秘または否認の状態だった。また、否認の場合に第三者委員会を立てなかった3件は、いずれも内部の対応にとどまっていた。
事件発覚時における加害聖職者の措置については、聖職停止が2件、退会が1件、異動が8件(国内外含む)、不明5件だった。加害聖職者の現在の状況は、死亡が4件、還俗が2件、他教区異動が3件、同教区内で司牧が2件(加害否認)、病気療養が1件、不明4件となっている。
結果を踏まえての反省と課題については、1)国家法の遵守、2)報告義務の徹底、3)第三者委員会の設置と招集の徹底、4)司教(長上)による事例の引き継ぎと共有、5)加害聖職者の教会内における処分、6)被害者への配慮を挙げた。
国家法の遵守としては、未成年に対する性的虐待は児童虐待に該当する犯罪であり、「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した場合は、児童福祉法第25条の規定ならびに児童虐待の防止等に関する法律第6条に基づき、すべての国民に、通告する義務が定められているため、児童相談所または各自治体の福祉事務所、警察などに通告を行い、児童虐待防止に資することが必要であるという認識を共有しなければならない」とした。今回の調査では、年代の古い事例も含まれており、国家法に基づいた通告事例は見られなかったという。
報告義務の徹底について、該当する教区司教への報告については、「今回の調査で、修道会・宣教会の性虐待事例について、新たに教区司教へ報告された事例もある。事例が発覚した場合は、教区司教への報告を徹底する必要がある。なお、修道会・宣教会本部から本部所在地の教区司教に報告された事例もあるため、事例が発生した土地の教区司教へ報告することを確認する」とした。
また、バチカン(ローマ教皇庁=聖座)への報告については、「地区裁治権者への報告義務ならびに聖座への報告義務が課せられるため、それに基づいて対応する必要がある。なお、日本においては、聖座への報告と同時に、司教協議会会長への報告も行わなければならない」とした。
第三者委員会の設置と招集の徹底については、加害聖職者が否認した5件のうち第三者委員会にかけられた事例は1件、教会裁判にかけられた事例が1件のみだったことに触れ、「被疑者が加害を否認した場合には、必ず第三者委員会を立ち上げ、被害者の訴えを確認し、加害の有無を判断しなければならない」とした。また、「第三者委員会は、被害者に立証を求め、合意の有無を確認するなど一般的な裁判の暴行・脅迫要件の基準だけで、加害の有無を判断してはならない。そのためにも第三者委員会構成員には慎重な人選が求められる」と指摘した。
司教(長上)による事例の引き継ぎと共有については、今回の調査で、2002年と12年の調査内容の事例に関する引き継ぎは、該当する教区すべてにおいて「前任者からの引き継ぎがなかった」という結果だったと指摘。「性虐待に限らず性被害の事例は、今後の加害聖職者の動きを把握するためにも、前任者から後任者への引き継ぎが必須である。たとえ前任司教(長上)からの引き継ぎがなくても、データ保管を確実にして、後任司教(長上)がそのデータを確認できるようにする必要がある。これらの事例の引き継ぎや共有の徹底は、再発防止ならびに被害拡大防止の点からも重要な意味を持つ」とした。
加害聖職者の教会内における処分については、「当該聖職者の法的・倫理的責任を明確にし、事件の再発の可能性がある職務からはずし、子どもと接する機会がないような措置を講じる。場合によっては聖職停止処分とする。また重大なつまずきになる場合には、還俗を勧めたり、聖職者身分から追放することもあり得る」とするマニュアルを遵守しなければならないとした。
今回の調査事例では、処分中にもかかわらず、その条件を守らずに活動している聖職者がいたことが報告されたと指摘し、「司教ならびに長上は、処分そのものが『制限を設けること』や『単なる有期的な制裁(活動停止、蟄居〔ちっきょ〕のような謹慎処分)』にとどまっており、加害聖職者の真の回心や償いに結びついていないという現実を受け止め、加害者の処分について検討し、再発防止に努めなければならない」とした。さらに、司教団としても、加害聖職者の処分について再考すると同時に、カウンセリングや医療的な治療の実施、霊的同伴を含めた包括的な更生プログラムを検討する必要があるとした。
被害者への配慮については、「被害者の全人的痛み(心理的・身体的・社会的・霊的傷つき)を重く受け止め、本人が希望する支援の提供を行うことができるよう対応する必要がある。また、たとえその時点で本人が支援を求めなかったにせよ、その後、援助が必要になった際はいつでも受け付けられるような配慮が必要である」とした。
今回の調査で訴えのあった教区、修道会・宣教会については、新たに第三者による検証委員会を設置し、事例対応が適正に行われたかどうかを精査して該当する教区司教から原則6カ月をめどに、司教協議会会長に報告するとした。また、今回の調査対象は未成年に対する性的虐待だが、大人に対する性暴力についても具体的な事例に基づいて考え、マニュアルなどに反映させていくとした。
調査報告がカトリック中央協議会の公式サイトに掲載されたのは7日だが、報告の日付は、ローマ教皇フランシスコの指示を受け、日本カトリック司教団が「性虐待被害者のための祈りと償いの日」(四旬節第2金曜日)と定めている3月13日付となっている。報告は日本語と英語で発表された。