昨年5月に90歳で亡くなったフランス系カナダ人のカトリック思想家ジャン・バニエ氏が生前、6人の女性に性的虐待を加えていたことが、専門機関の調査で分かった。バニエ氏が創設した知的障がいを持つ人と持たない人の共同体「ラルシュ」の国際連盟が22日、調査結果を発表した。
国際ラルシュ連盟の発表(英語)によると、虐待は1970年から2005年にかけてフランスであった。被害を受けたのは全員が成人女性で、いずれも障がい者ではないという。調査結果の概要(英語)によると、未婚者、既婚者共におり、出身地や年齢はさまざま。中には修道女もいた。
被害女性らは互いの被害について知らなかったが、バニエ氏からは、行為を正当化させるため、「非常に異常な霊的または神秘主義的な説明」を受けていたことを共通して証言している。中には「これは私たちのことではない。マリアとイエスのことだ。あなたは選ばれた特別な存在だ。これは秘密だ」と言われたと証言する女性もいる。国際ラルシュ連盟は、非常に巧妙で、感情的な虐待を伴うものだったと指摘。「これらの行為は、バニエ氏が女性たちを心理的、精神的に支配していたことを示す」と述べた。
バニエ氏による性的虐待疑惑が最初に持ち上がったのは2016年。1970年代に虐待を受けたと訴える女性が国際ラルシュ連盟に告発し、調査が行われた。バニエ氏はこの際、女性との関係を認める一方、関係は「相補的」なものだったと述べていた。しかし2019年、再び同様の性的被害を訴える女性が出てきたため、国際ラルシュ連盟は虐待の調査・防止が専門の英コンサルタント会社に調査を依頼。バニエ氏が亡くなる1カ月前の昨年4月から調査が行われていた。
今回の調査では、6人の女性に対する性的虐待のほか、同じく性的虐待を行っていたことが明らかになっているトマ・フィリップ神父(1905~93)から、バニエ氏が性的虐待の手法についても影響を受けていたことが浮き彫りになった。フィリップ神父はラルシュ創設にも関わっており、バニエ氏は「精神的な父」と呼んでいた。
フィリップ神父をめぐっては2014年、性的虐待を訴える告発が国際ラルシュ連盟にあり、調査の結果、翌15年に虐待が認定された。一方、調査の過程で、フィリップ神父が1956年にすでに、性的逸脱行為などを理由にカトリック教会から処罰を受けていたことも判明した。同連盟は、フィリップ神父に対する処罰または性的逸脱行為について把握していたかをバニエ氏に確認したが、バニエ氏は2015年と16年に把握していなかったと述べていた。
しかし、フィリップ神父からバニエ氏に宛てられた184通の手紙やその他の書類を調べたところ、バニエ氏は少なくとも1950年代には、フィリップ神父の処罰やその主要な理由を知っていたことが判明。さらに調査結果は、バニエ氏がフィリップ神父と数人の女性からなる秘密のグループのメンバーだったことも示唆した。同グループでは、カトリック教会から非難されていた性的逸脱行為が行われていたという。
国際ラルシュ連盟は調査結果を受け、「これらの発見によりショックを受けており、全面的にこれらの行為を非難する」とコメント。その上で、声を上げた被害女性らの「勇気と苦しみ」を覚えるとし、「これらの出来事がラルシュで起こってしまったこと、その幾つかはわれわれの創設者によって起こされたことについて、赦(ゆる)しを求める」と述べた。
同連盟は、調査結果をフランスのカトリック教会が設置する性的虐待独立調査委員会(CIASE)に提出した。