フランス系カナダ人のカトリック思想家ジャン・バニエ氏が、現地時間7日午前2時10分、数人の親族に見守られる中、パリで死去した。90歳だった。知的障がいや発達障がいなどの知的ハンディを持つ人々と持たない人々の共同体「ラルシュ」(フランス語で「箱舟」の意味)の創設者として知られる。2015年には、宗教界のノーベル賞と呼ばれるテンプルトン賞を受賞していた。
国際ラルシュ連盟の発表(英語)によると、亡くなる数日前に残した最後のメッセージは「私は深い平安と信頼の中にある。未来はどうなるか分からないが、神は良いお方であり、何が起ころうともそれは最善となる。私は幸せであり、すべてのことに感謝している。あなたがた一人一人に私の心からの愛を」だった。
バチカン放送(英語版)によると、ローマ教皇フランシスコは訃報を受け、バニエ氏とラルシュの共同体全体のために祈りをささげた。教皇は2014年にバニエ氏と面会しており、「笑顔と出会いの人」と評していた。
バニエ氏は1964年にラルシュを創設したほか、71年には知的ハンディを持つ人々とその家族や友人たちのためのネットワーク「信仰と光」も共同で創設した。ラルシュの共同体は現在、38カ国に154あり、「信仰と光」のグループは世界86カ国に広がっている。ラルシュは日本でも、静岡市に「ラルシュかなの家」がある。
バニエ氏は、マザー・テレサや超教派の男子修道会「テゼ共同体」の創設者であるブラザー・ロジェとも深い交友関係があった。また霊性に関する多くの著作を残し、プロテスタントの福音派からも支持されるカトリック司祭のヘンリ・ナウエン氏は、バニエ氏に大きな影響を受けた人物として知られている。
著書も多く、『小さき者からの光』(1994年、あめんどう)や『心貧しき者の幸い』(96年、同)、『人間になる』(新教出版社、2005年)など、邦訳書も多数出版されている。
葬儀は16日、バニエ氏が2人の知的障がい者と共同生活を始めたラルシュ発祥の地であるフランス北部の村トロリー・ブレイユで行われる。葬儀の模様は、フランスのテレビ局で生中継される予定。