モスクワ総主教庁系のウクライナ正教会(UOC)の弁護士は、ウクライナ国内でUOCの活動を実質的に禁止する法案が審議されていることについて、米国のキリスト教指導者や政治家らが沈黙しているのは、ウクライナ側による強力なロビー活動のためだと主張している。
ウクライナ最高議会は10月19日、第1読会で、ロシアとつながりのある宗教団体を取り締まり、事実上その活動を禁止する法案を賛成多数で可決した。法案は、ロシア正教会と歴史的につながりがあるUOCを標的とするものだとされ、第2読会でも可決され、大統領が署名すれば成立することになる(関連記事:ウクライナ最高議会、モスクワ総主教庁系正教会の活動を禁止する法案を第1読会で可決)。
米保守派政治コメンテーターのタッカー・カールソン氏とのインタビュー(英語)で、UOCの弁護士であるボブ・アムステルダム氏は、歴史ある教派であるUOCを取り巻く現状について説明した。
アムステルダム氏は、UOCを「ウクライナにおける正教の故郷」であり、「千年の歴史がある」と強調。「5年前、ウクライナ政府は知恵を絞って、いわゆる独立教会を設立しました」と述べ、キエフ総主教庁系のウクライナ正教会とウクライナ独立正教会が合併して2018年に設立されたウクライナ正教会(OCU)について触れた。ウクライナには現在、UOCとOCUの2つの正教会が存在し、ロシアの影響から独立しているとされるOCUは、今回の法案の対象にはなっていないとみられている。
アムステルダム氏は、「(ウクライナ政府は)その独立教会(OCU)がウクライナ人の精神的な故郷に取って代わるべきだと決定しました」と述べ、OCUが悪質なキャンペーンを行っていると主張。その上で、次のように述べた。
「UOCは昨年5月にモスクワ総主教庁から完全に分離していますが、ロシア(連邦保安庁)と何らかの関係があるという言い分を、OCUは述べるでしょう。しかし、私が調べた証言によれば、この疑惑にはほとんど実体がないようなのです。ウクライナ国内には、UOCよりもはるかに浸透しているロシアの秘密警察のような機関が他にもあります。しかし、それには理由、悲しい理由があるのです」
「恐らくウォロディミル・ゼレンスキー大統領を含むウクライナの政治家たちは、この新しい教会(OCU)の背後にいる人たちのポピュリズム的な票を取りたいのであり、従って、キリスト教の古くからの教派(UOC)を破壊することが彼らの政治的利益になるのではないかと感じています。75歳の聖職者に5年の実刑判決が下されるなど、UOCの教会指導者たちに加えられた被害には、ただ驚くばかりです」
カールソン氏は、ウクライナ政府のUOCに対する扱いについて、米国のキリスト教指導者たちとのやりとりを詳述し、彼らがUOCの信者らを「本当のキリスト教徒」ではなく、「ロシアの工作員」と見なしていることに懸念を表明した。
アムステルダム氏は、米国のキリスト教指導者や政治家のUOCに対する関心が低いのは、「ウクライナロビーが絶大な力を持っているから」だと指摘した。
「ウクライナで起きていることに関して、米国では今、途方もない真実の隠蔽(いんぺい)が見られます。米国の指導者たちの多くは、これらについて聞いてすらいません。欧州でも同じです。ウクライナ人が作り上げた巨大な(広報)マシーンを通り抜けることはできなくなっているのです」
アムステルダム氏は、「ウクライナ憲法や国際法、戦争法、ウクライナにおける決議のいずれにも、戦時中の限られた権利の下で、宗教上の教派を禁止するための根拠はありません」と強調。ウクライナ政府によるUOCの活動禁止に向けた動きは、幾つかの国際法や規範に違反しており「何一つ容認できない」と述べ、UOCの信者らは「ウクライナ国民の中で最も敬虔な人々」だと訴えた。