ウクライナ最高会議(議会)は19日、第1読会で、ロシアとつながりのある宗教団体を取り締まる法案を、賛成267、反対15、棄権2の賛成多数で可決した。法案は、ロシア正教会と歴史的につながりがあるモスクワ総主教庁系のウクライナ正教会(UOC)を標的とし、事実上その活動を禁止するものだとされ、一部からは信教の自由を抑制すると批判的な声も上がっている。
最高会議はウクライナの一院制議会で、法案は通常、複数回の読会で可決された後、大統領が署名して成立する。ロイター通信(英語)によると、今回の法案は第2読会で可決された後、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領が署名すれば成立する。
AP通信(英語)によると、第1読会で可決された法案は、「ウクライナ国外にあり、ウクライナに対して武力侵略を行っている国家に運営の中心がある宗教団体の影響下にある宗教団体による、あらゆる活動を禁止する」もの。
ウクライナの第3党である欧州連帯党のイリーナ・ヘラシチェンコ議員は、今回の採決を「歴史的」と呼び、「ウクライナ最高会議は、モスクワの司祭たちをウクライナの土地から追放する第一歩を踏み出しました」と述べた。オンラインメディア「キーウ・インディペンデント」(英語)によると、ヘラシチェンコ議員は次のように述べた。
「(法案は)宗教や教会に関するものではなく、ウクライナの安全保障に関するものです」
「モスクワに府主教を置く教会は、実際には教会ではなく、ロシア連邦保安庁(FSB)の支部なのです。そして、それは法廷で禁止することができます」
これに対し、ロシアのウクライナ侵攻を支持してきたロシア正教会のモスクワ総主教キリルは、声明を発表(英語)し、この法案はウクライナを「過去の最も恐ろしいテオマシズム(「神の意志に抗う人」の意)政権に並べるものだ」と主張し、採決を非難して次のように述べた。
「ウクライナでこの法案を可決した発起人や支持者には、政府高官、ウクライナ最高会議の議員、急進的な政治家、公人が含まれています。彼らは、この法案がウクライナ最大の信仰共同体に向けられたものであり、各教区、小教区、男女の修道院を持つ中央集権的な組織としてのUOCを清算することを目的としているという事実を隠さないのです」
昨年2月にロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、ウクライナ政府はUOCに対し、親ロシア的なプロパガンダを推進していると非難し、取り締まる措置を取ってきた。ウクライナ国家安全保障・国防会議はUOCの建物を家宅捜索し、聖職者らが所持していた侵略を支持するロシア語の資料を発見したと伝えられている。
一方、UOCは昨年5月、ロシア正教会の指導部が侵攻を支持したことを理由に、モスクワ総主教庁との関係を正式に断絶し、戦争を糾弾した。
昨年12月、ウクライナの治安関係者は政府に対し、UOCに対する禁止令を可決するべきだと伝え、ゼレンスキー大統領はこの提案を支持する考えを示し、次のように述べた。
「侵略国家(ロシア)に依存する者がウクライナ人を操り、ウクライナを内部から弱体化させる機会を持てないような状況をつくらなければならない。ウクライナ人の魂の中に帝国を築くことは決して許されない」
ウクライナには、UOCの他に、キエフ総主教庁系のウクライナ正教会とウクライナ独立正教会が合併して2018年に設立され、翌19年にコンスタンティノープル総主教庁(トルコ)から承認されたウクライナ正教会(OCU)があり、2つの正教会が存在する。OCUはロシアの影響から独立しているとされ、今回の法案の対象にはなっていないとみられる。
英公共放送BBC(英語)によると、ロシアによる侵攻が始まって以降、モスクワ総主教系のUOCから、多くの信者が非モスクワ総主教庁系のOCUに移っているが、UOCにも依然として何百万人もの信者がとどまっているという。