ウクライナ当局は10日、ロシア正教会と歴史的につながりがあるモスクワ総主教庁系のウクライナ正教会(UOC)に対し、970年以上の歴史を持ち、世界遺産にも登録されているキーウ・ペチェールシク大修道院を29日までに明け渡すよう命じた。ロイター通信(英語)が伝えた。
UOCはロシア正教会と歴史的につながりがあるが、ロシアの侵攻を受け、昨年、モスクワ総主教庁との関係を断ち切っている。ウクライナ文化省は声明で、UOCが「国有財産の使用に関する合意事項に違反した」と主張しているが、どのように違反したかは明らかにしていない。一方のUOCは、自分たちは政治的な魔女狩りの犠牲者だと主張している。
これに対し、ロシア正教会のモスクワ総主教キリルは11日、大修道院の強制閉鎖を防ぐべく、カトリック教会のローマ教皇フランシスコや英国国教会のカンタベリー大主教ジャスティン・ウェルビー、コプト教会の教皇タワドロス2世を含む複数の宗教指導者、また、国連のアントニオ・グテーレス事務総長やフォルカー・トゥルク人権高等弁務官を含む国際社会の指導者らに協力を懇願した。
しかし、キリル総主教は、ロシアのウクライナ侵攻を公然と支持して他の正教会の聖職者たちから怒りと反発を招くなどしており、見通しは不明だ。
ウクライナ当局は過去数カ月間にわたってUOCを取り締まり、親ロシア派の考えを広めているとして非難している。これまでに、UOCに所属する複数の教会を家宅捜索し、親ロシア派の文書を発見したとして、UOCがウクライナの戦争努力を損なっていると主張するなどしてきた。
一方、UOCの広報担当者であるクリメント・ベチェリア府主教は、ウクライナ当局は家宅捜索でUOCがロシアとの戦争に対し非協力的であることの証拠を示せていないと主張。また、ロシアの侵略者と戦っている人々の中にはUOCの信者もいることを強調し、米CNNとの1月のインタビュー(英語)では次のように語っている。
「捜査結果には、武器や工作員(の発見)について言及はありませんでした。彼らが見つけたと言ったのは、ウクライナの法律で禁止されてはいない印刷物や書類だけでした」
「UOCの信者はウクライナの市民であり、時にはウクライナの最高の市民であり、自らの命をかけて愛国心を証明しているのです」
ウクライナ当局は昨年12月、ロシアと同調的な関係にあるとされる正教会の聖職者7人について、資産を差し押さえ、特定の経済活動や法的活動、渡航を禁止する措置を取った(関連記事:ウクライナ、ロシアとの関係巡り正教会の聖職者7人に制裁)。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は当時、これらの措置について、聖職者がロシアに協力するのを防ぐためだと主張。「われわれは、ウクライナ社会を苦しめ得る侵略国家が引ける糸はないことを確かなものとするため、あらゆることをしている」と説明していた。
一方、ウクライナ当局のこうした措置について、信教の自由を侵害する行為だとして懸念を表明する人もいた。米キリスト教メディア「クリスチャンポスト」のコラムニストであるヘディ・ミラマディ氏は当時、次のように主張した。
「ゼレンスキー氏は、UOCがモスクワから正式に分離したにもかかわらず、その宗教活動を禁止したことで、苦境にある何百万人ものウクライナ人の精神的実践を事実上制限しています」
「ウクライナの対ロシア戦争は民主主義のための戦いだという主張がなされていますが、修道院に軍隊を送り込むことは自由の促進にはなりません。ウクライナの盟友によるこの最新の動きは、政治的な立場にかかわらず、キリスト教徒による大きな反発の根拠となるはずです」