米連邦最高裁は6月30日、ケーキ店を営むクリスチャンの夫妻が同性婚用のケーキを作ることを拒否したことは差別に当たるとし、州法違反としたオレゴン州控訴裁の判決を破棄し、審理を差し戻した。
破棄されたのは、オレゴン州労働産業局と係争中のアーロン・クラインさんと妻のメリッサさんに対する判決。差し戻しを命じたのは、連邦最高裁が同日下した「303クリエイティブ社対エレニス」訴訟の判決(英語)に照らして再審理するよう求めたため。
「303クリエイティブ社対エレニス」訴訟は、クリスチャンのウェブデザイナーであるロリー・スミスさんが運営する303クリエイティブ社が、宗教上の理由で反対している同性婚を祝うウェブサイトの制作を、差別を禁止する州法を理由に強制されないことを確認するもので、連邦最高裁は6対3でスミスさんの主張を認める判決を下した。
連邦最高裁のニール・ゴーサッチ判事は、「303クリエイティブ社対エレニス」訴訟の判決で、「いかなる公共施設法も、米国憲法の要求から免れることはできない」とし、「自分の頭で考え、その考えを自由に表現する機会は、私たちが最も大切にしている自由の一つであり、私たちの国を強固なものにしている一端である」と述べた。
クライン夫妻の代理人を務めるキリスト教法律団体「ファーストリバティー協会」は、夫妻に対する先の判決が破棄されたことを歓迎する声明(英語)を発表し、ケリー・シャックルフォード会長兼最高責任者(CEO)は次のように述べた。
「本日の判決のように、連邦最高裁が下級審の悪しき判決を破棄することは勝利ですが、この裁判は終わったわけではありません。クライン夫妻は10年以上にわたって、(信教の自由や表現の自由を定めた)米国憲法修正第1条のために戦ってきました。われわれは、彼らにふさわしい勝利を得るために、どれだけ時間がかかろうとも彼らと共に立ち上がります」
10年にわたる一連の経緯
クリスチャンであるクライン夫妻が運営していたケーキ店「スウィートケークス・バイ・メリッサ」は2013年、結婚は一人の男性と一人の女性の間で成立するという宗教的信念を理由に、レズビアンのカップルのためにウエディングケーキを作ることを拒否した。
これに対し、ケーキを注文しようとしたレズビアンのカップルは、オレゴン州労働産業局に差別であると申し立て、同局はクライン夫妻が性的指向に基づいた差別などを禁止する同州の公共施設法に違反したと結論付けた。この決定により、クライン夫妻は賠償金13万5千ドル(約1950万円)の支払いを命じられ、ケーキ店の閉鎖を余儀なくされた。
クライン夫妻は16年、同局の決定を不服として提訴したが、オレゴン州控訴裁は同局の決定を支持。同州最高裁も18年、夫妻の訴えを退けたため、夫妻は同年、連邦最高裁に1回目の上訴を行った(関連記事:同性婚ケーキ作り拒否訴訟、オレゴン州最高裁がケーキ店側の訴え棄却 連邦最高裁へ)。
連邦最高裁は19年、前年に出した「マスターピース・ケーキ店対コロラド州公民権委員会」訴訟の判決を踏まえ、クライン夫妻に対するこれまでの判決を破棄し、オレゴン州控訴裁に審理を差し戻した。
連邦最高裁は「マスターピース・ケーキ店対コロラド州公民権委員会」訴訟で、同州公民権委員会が、マスターピース・ケーキ店を営むクリスチャンのジャック・フィリップスさんに対し、ゲイのカップルのためのウエディングケーキを作ることを宗教上の理由で拒否したことについて、反差別法に違反するとして罰金を科したのは、信教の自由などを定めた米国憲法修正第1条に違反するとする判決を7対2で下していた(関連記事:同性婚ケーキ作り拒否 最高裁でケーキ職人が逆転勝訴、なぜ? 判決詳細)。
審理が差し戻されたオレゴン州控訴裁は昨年1月、クライン夫妻が性的指向に基づく差別をしたとする判断は維持した一方、賠償金13万5千ドルの支払いについては、再検討を求める判決を下した(関連記事:米オレゴン州同性婚ケーキ作り拒否訴訟、ケーキ店への賠償命令覆すも差別認定は維持)。
この判決を受け、ファーストリバティー協会は同州最高裁に上訴したものの退けられたため、同年9月、連邦最高裁に2回目の上訴をした。そして今回、連邦最高裁は再び、同州控訴裁の判決を破棄し、審理を差し戻す決定を下した。
ファーストリバティー協会のステファニー・タウブ主席弁護士は、連邦最高裁に2回目の上訴をした際の声明(英語)の中で、クライン夫妻はそれまで「公平な法廷での公正な審理」を一度も受けたことがないと主張し、次のように述べていた。
「法廷が、クライン夫妻の訴えを審理し、全ての米国人が適正な手続き、言論の自由、信教の自由に対する憲法上の権利を有することを明確にすることを望みます。10年近くたった今、連邦最高裁が、オレゴン州によるクライン夫妻に対する敵対行為に終止符を打つ時が来たのです」