同性愛者としての生き方をやめた自身の経験を語ったことで起訴された元ゲイのクリスチャン男性の公判が9日、地中海の島国マルタで始まった。
起訴されたのは、マシュー・グレッチ氏(33)。グレッチ氏は昨年4月、現地メディア「PMニュース・マルタ」とのインタビューで、同性に引かれる自身の望まない性的指向を克服し、キリスト教を受け入れたことについて話した。しかしその後、同性愛者の性的指向の矯正を目的とする「転向療法」の実践について議論し、これを宣伝したとして起訴された。
マルタは2016年、科学的ではないとして、欧州連合(EU)で初めて転向療法を禁止。現在、その取り締まりの強化についてさらなる検討を行っている。
PMニュース・マルタは、グレッチ氏にインタビューをする2カ月前の昨年2月、マリオ・カミッレーリ氏(44)とリタ・ボンニーチ氏(45)が、表現の自由について扱うメディアとして立ち上げた。グレッチ氏だけでなく、カミッレーリ、ボンニーチの両氏も起訴された。
グレッチ氏は有罪となった場合、禁錮5月と5千ユーロ(約75万円)の罰金を科される可能性がある。
グレッチ氏は公判に先立ち、同国の転向療法に関する法律は「非人道的」だと述べた。
「今週、私は初めて刑事訴訟に臨みます。私のキリスト教信仰の希望とクリスチャンが信じるものを、本質的に共有するためです」
「オカルトに興味を持ち、レイキ(霊気)マスターになりたいと思っていた実践的同性愛者から、熱心な福音派のクリスチャンに変えられた私のクリスチャンとしての歩みは、犯罪とされることを恐れずに語られるべきものです」
グレッチ氏は、弱い立場の人に転向療法を行うことや、転向療法の実施を宣伝または申し出ることを禁止した同国の「性的指向・ジェンダー・性表現擁護法」の第3条に違反した罪に問われている。転向療法を禁止する法律で起訴されたのは、グレッチ氏が世界で初めてと見られている。
グレッチ氏を支援する英人権団体「キリスト教法律センター」(CLC)は、この訴訟の結果は、世界中の元ゲイのコミュニティーに影響を与えるだけでなく、転向療法に対し公に疑問を投げかけ、議論するという、報道の自由や言論の自由にも影響を与えるとしている。
CLCのアンドレア・ウィリアムズ最高責任者(CEO)は、次のように語った。
「マシュー氏が、自身の望まない、また満たされることのない同性愛行為からの解放を語ったというだけで犯罪者にしようとするマルタ当局のこの明白な試みを、私たちは皆、懸念すべきです。マシュー氏や他の人々が変われることを否定することは、差別であり、クリスチャンとしての自由、また言論の自由という基本的人権を侵害するものです」
「『転向療法』禁止のドミノ効果はマルタから始まりました。マルタのこの訴訟で前例ができれば、しっかりとした対策が取られない限り、英国でも同様のケースが起こるでしょう。マルタの人々のためだけでなく、世界中のクリスチャンの自由と、同性愛や同性に引かれる自身の望まない性的指向から離れる自由のために、この訴訟に勝つことが不可欠です」
同性に引かれる自身の望まない性的指向に悩む人々に治療的サポートを提供しているキリスト教団体「コア・イシューズ・トラスト」のマイク・デビッドソン代表は、グレッチ氏の訴訟は人権と言論の自由に対する攻撃だと述べる。
「先例となるであろうこの訴訟で、言論、良心、宗教の自由が攻撃されているのです。事実は、治療やカウンセリングの選択は、基本的な権利であるということです」
「単一文化的な視点、つまり性的指向は先天的で変えられないという考えや、ジェンダーは生物学的な性別とは無関係であるという考え方を推進する政府は、LGBTと名乗りたくない人々が、もはや自分に関係のないアイデンティティーや慣習から離れる権利を否定しています。これは人権の問題です」
「あらゆる人生の問題においてイデオロギーの多様性がなければ、民主主義はチェック・アンド・バランスが否定され、全体主義に陥ってしまうことでしょう」