世界平和統一家庭連合(旧統一協会)の被害者救済を巡る「不当寄付勧誘防止法」(法人等による寄付の不当な勧誘の防止等に関する法律)が10日、参議院本会議で賛成多数により可決、成立した。
「配慮義務」3項目、「禁止行為」6項目
不当寄付勧誘防止法では、寄付の勧誘を行う際の「配慮義務」として3項目、「禁止行為」として6項目を制定。また、借り入れや財産処分による寄付を要求することも禁止した。
配慮義務を守らない場合、勧告や公表を行う。禁止行為に違反した場合は、報告の要求や勧告、命令を行う。報告しなかったり、虚偽の報告をしたりした場合は、50万円以下の罰金を科す。また、命令に従わない場合は、公表した上で1年以下の拘禁刑や100万円以下の罰金を科す。
配慮義務には、以下の3項目(要旨)が定められた。
- 個人の自由な意思を抑圧し、寄付について適切な判断を困難にさせない。
- 寄付により、個人や家族の生活維持を困難にさせない。
- 寄付勧誘をする法人などを明らかにし、寄付の使途を誤認させない。
禁止行為には、以下の6項目(同)が定められた。これらに該当した勧誘が行われた場合、寄付の取り消しが可能となる。
- 寄付勧誘において、個人の求めに応じず、個人の住居や職場から退去しない。
- 寄付勧誘の場から個人を退去させない。
- 寄付勧誘であることを告げず、個人を退去困難な場所に同行し寄付勧誘する。
- 寄付勧誘の場で、個人が他者に電話などで相談することを威圧的な言動で妨害する。
- 個人の寄付勧誘者に対する好意や誤信を利用する。
- 霊感などで不安をあおり、寄付が必要不可欠だと伝える。
この他、家族に対する被害の救済として、寄付者の子どもや配偶者は、将来受け取るべき養育費の範囲内で、寄付者本人に代わって寄付の取り消しや返金請求が可能となる。
衆参で審議5日間のスピード成立
不当寄付勧誘防止法は、政府が1日に法案を閣議決定。衆議院では6日から審議が始まり8日に可決し、その後参議院で10日に可決と、国会での審議は5日間のスピード成立となった。10日は土曜日で、参議院本会議で休日に審議が行われるのは1994年1月以来、約29年ぶりで異例。10日は、臨時国会の閉会日だった。
与党の自民党、公明党に加え、野党の立憲民主党、日本維新の会、国民民主党が賛成し、共産党とれいわ新選組は反対した。
全国弁連「重大な不足点、解消されてない」
不当寄付勧誘防止法の成立を受け、旧統一協会の問題に取り組む全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)は同日、声明を発表。全国弁連はこれまでに2度、同法案の不足点や問題点を指摘する声明を発表しているが、「若干の修正は見られたものの、重大な不足点については最後まで解消されなかった」とした。
その上で、同法の不足点、問題点のうち、重要なものとして、1)家族被害の救済が図られていない、2)行政処分による救済可能性が不明、3)禁止行為などの範囲・適用対象が狭い、4)個人への寄付が対象から外れている、5)「2世」の支援に関して――の5点を挙げた。
この中で、家族被害の救済については、同法では債権者代位権行使の特例を用いているが、「この制度は要件が狭く、取り消しの範囲も狭く、家族被害の救済にはならない」「特に未成年者である2世が権利行使するのが極めて困難な制度」と指摘。その上で「家族被害を抜本的に救済し、かつ、被害者本人の保護を図っていくためには、家庭裁判所の監督の下で第三者が本人に代わって寄付を取り消し管理する制度が必要である」としている。
また、同法の適用対象が、法人と代表者・管理者がいる社団・財団に対する寄付に限られていることについては、旧統一協会が今後、解散命令によって法人格を失った場合も想定。旧統一協会は解散後も、幹部が個人として、あるいは代表者・管理者のいない宗教団体として、違法な寄付勧誘を継続する恐れが高いとし、同法ではそうした事態に対処できないと指摘している。その上で、2年後に行われる同法の見直し時には、対象範囲を個人にまで広げるべきとしている。
この他、配慮義務についても、2年後の見直し時には禁止行為に変更すべきだとしている。
不当寄付勧誘防止法は今後、内閣を経由して奏上された日から30日以内に公布され、一部を除いて公布後20日に施行される。
■ 不当寄付勧誘防止法(法人等による寄付の不当な勧誘の防止等に関する法律)の法案(参議院提出)
■ 同法案要旨(同、衆議院における修正事項の記載あり)