政府が防衛費増額の政策方針を表明する中、日本キリスト教協議会(NCC)の金性済(キム・ソンジェ)総幹事は9日、岸田文雄首相と岸信夫防衛相に対し、憲法9条の理念に立ち返った平和外交を求める要望書を提出した。NCCが同日、公式サイトで発表した。
政府は、7日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」で、北大西洋条約機構(NATO)加盟国が、国内総生産(GDP)比2%以上の防衛費を基準としていることを例示した上で、「防衛力を5年以内に抜本的に強化する」と明記した。現在の防衛費は、今年度当初予算で約5・4兆円。仮にGDPの2%が割り振られた場合、ほぼ倍増する計算になる。
要望書は、終末の平和を預言したイザヤ書2章4〜5節を冒頭で引用し、「(この聖句は)日本国憲法第9条の精神を裏付けるかのように、私には思われます」と言及。「武器をもって他国を攻める謀略も、武器をもって防衛の名のもとに反撃する戦争も、どちらも行き着くところは果てしない、多くの命の犠牲と人間の精神破壊、そして社会の廃墟であり、そのような道を捨てて、ひたすら互いの命を慈(いつく)しみ、糧を共に分かち合おうとすることのみが、人が平和に至る唯一の道」だと、その精神を述べた。
ロシアによるウクライナ侵攻については、「明らかな国連憲章の蹂躙(じゅうりん)であり、世界を驚愕(きょうがく)させ、またその市民の犠牲者と故郷を追われ逃げ惑うウクライナ市民の姿に私たちは悲しみと怒りの心を禁じることはできません」と強く非難。一方で、このような事態が世界を「敵か、味方か」に分断し、相互不信と敵意をプロパガンダによって高揚させる空気が国際社会に充満しつつあることに「深い憂慮」を示した。
国の外交・防衛政策の基本方針に当たる「国家安全保障戦略」などの見直しに向けた自民党の提言については、提言内で言及される「反撃能力」の内実は「敵基地攻撃能力」だと指摘。これは、これまで憲法9条の理念の下に貫かれてきた専守防衛という基本方針を放棄して、「相手側の攻撃が、明確に意図があって、すでに着手している状況であれば、(敵基地攻撃の)判断を政府が行う」(小野寺五典・安全保障調査会長)考え方であり、先制攻撃理論だと批判。日本のこれまでの安全保障戦略の大転換を意味するものだと述べた。
防衛費の増額については、「その増額分を国債発行で賄える、という声が政治家から発せられていますが、まるでそれは、1945年の破滅にばく進した軍国日本の姿を彷彿(ほうふつ)させるというほかありません」と強く非難した。
その上で、「ただ単に危機に対する無作為として憲法第9条に記された戦争放棄を唱えるのではなく、戦争の永久放棄と戦力不保持を謳(うた)うこの憲法第9条の精神から、武力による攻撃も報復も、いったん始まってしまえば、相互に対する敵意の相乗の罠(わな)に転落するほかなく、結局相互を破滅にしか導かないことを洞察し、敵意と軋轢(あつれき)、そして紛争を乗り越えるためのあらゆる平和外交の叡智(えいち)を絞り出し、大国におもねることなく実践していくことが平和憲法に立脚する日本の使命」だと訴えた。