ロシア正教会のモスクワ総主教庁は7日、同庁対外教会関係局局長(渉外局長)のボロコラムスク府主教イラリオン(55)を解任し、ハンガリー・ブダペスト教区の管理者に任命したことを公式サイト(ロシア語)で発表した。イラリオン府主教はこの他、聖シノド(主教会議)の常任委員なども解任され、今後はハンガリー・ブタペスト府主教となる。
カトリック系のCNA通信(英語)によると、イラリオン府主教は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まる前の1月、過去の紛争を引き合いに出し、戦争に反対する立場を示していた。また、正教会系のオーソドックス・タイムズ(英語)は、イラリオン府主教がこの数カ月、軍事侵攻を後押しするモスクワ総主教庁の姿勢から距離を置き、ロシア政府と同一視されることを避けようと努めてきたと指摘している。
CNA通信によると、渉外局長はモスクワ総主教庁の「外相」に相当する立場。イラリオン府主教はこれまで、ロシア正教会の対外的な顔として、カトリック教会の名誉教皇ベネディクト16世や教皇フランシスコらとも会見してきた。現在、ロシア正教会トップのモスクワ総主教キリルも、1989年から総主教就任まで務めた。イラリオン府主教は2009年から13年間にわたって、キリル総主教の後任として渉外局長を務めてきた。
正教会系の国際アドボカシー団体「正教会広報委員会」(OPAC)は3月、ウクライナ侵攻に対する責任があるとして、キリル総主教らロシア正教会の指導者4人に対する制裁措置を求めたが、イラリオン府主教もそのうちの1人だった(関連記事:正教会系団体とウクライナ正教会の大主教、ロシア正教会指導者らへの制裁要求)。
ハンガリー・ブダペスト教区は、イラリオン府主教が渉外局長に就任する前の03~09年に管轄していた教区。
イラリオン府主教は、解任が発表される直前の1日から6日にかけてハンガリーを訪問し、カトリック教会やセルビア正教会のほか、ハンガリー政府の関係者らと会見している。キリル総主教は、ウクライナへの軍事侵攻に対する姿勢をめぐって、欧州連合(EU)の制裁リストに加えられる可能性があったが、ハンガリーが反対したことで回避できていた。そのため、イラリオン府主教は訪問時、ハンガリー政府に対し制裁リストをめぐる対応などに謝意を伝えていたという。
イラリオン府主教の後任にはコルスン府主教アンソニー(37)が選ばれた。アンソニー府主教は渉外局長と聖シノド常任委員に任命され、今後はボロコラムスク府主教となる。