これまでロシア正教会との関係を維持してきたモスクワ総主教庁系のウクライナ正教会(UOC)は27日、首都キーウ(キエフ)近郊フェオファニアの聖パンテレイモン修道院でシノド(教会会議)を開催し、現在の戦争をめぐるモスクワ総主教キリルの立場に同意しないと表明。UOCの「完全な独立と自治」を宣言した。
UOCの公式サイトに掲載された発表(英語)によると、シノドはこの日、ロシアによるウクライナ侵攻によってもたらされた教会生活における諸問題を協議。戦争を十戒の一つ「汝(なんじ)殺すなかれ」(出エジプト20:13)に対する違反であるとし批判した。また、戦争により苦しむすべての人々に対し、心からの哀悼の意を表明。ウクライナ、ロシア両政府に対し交渉プロセスを継続し、流血を止めるための対話を模索するよう強く求めた。
その上で、現在の戦争をめぐるキリル総主教の立場には同意しないとし、UOCの「完全な独立と自治」を示す教会の管理に関する規則の改定を承認したとしている。ロシアのウラジミール・プーチン大統領と関係が深いキリル総主教はこれまで、ロシアによるウクライナ侵攻を公に批判していないとされる。
UOCのシノドはこの他、国外避難した600万人を超えるウクライナ難民から、現地で小教区の設置を認めるよう求める要望も多いとし、ウクライナ国外における教会共同体の組織化の必要性についても触れた。
一方、以前からロシア正教会と距離を置く非モスクワ総主教庁系のウクライナ正教会(OCU)については、コンスタンティノープル総主教庁(トルコ)によるOCUの承認は、「誤解を深め、物理的な対立をもたらすのみだった」としつつも、「対話再会の希望は失っていない」と表明。ロシアによる侵攻開始後、400余りの教会・修道院などがUOCを離脱しOCUに移ったとされるが、こうした動きは「教会の不法占拠と小教区の強制移転」であるとして停止するよう求め、対話再開の条件の一つとした。
UOCの決定に対して、ロシア正教会のモスクワ総主教庁対外教会関係局局長であるボロコラムスク府主教イラリオンは28日、コメント(英語)を発表。決定は、1990年に当時のモスクワ総主教アレクシイ2世が認めたUOCの自主管理性を確認したものにすぎないとし、ロシア正教会との結束は保たれているとした。
しかし、翌29日の発表(英語)によると、この日に開かれたロシア正教会の聖シノド(主教会議)では、UOCが行ったとする規則の改定について、現時点では内容が公表されていないため検討できないものの、ロシア正教会の聖シノドによって検討される必要があるとされた。また、UOCの多くの教区が、奉神礼(礼拝)においてキリル総主教の名を言及することをやめていることに対しては、遺憾を表明した。
それでもイラリオン府主教は、UOCのロシア正教会からの離脱は改めて否定。「今日のウクライナで起こっているあらゆること、UOCに対する前例のない圧力という文脈の中で、これらの動きを認識すべきだ」と述べた。
しかし、独立系の正教会メディア「オーソドックス・タイムズ」(英語)によると、UOCの対外教会関係局副局長であるニコライ・ダニレビッチ長司祭は27日、UOCの決定が発表された直後にソーシャルアプリ「テレグラム」に、「UOCはモスクワ総主教庁から距離を置き、独立した地位を確認し、独立憲章を改定しました」と投稿。「本教会とモスクワ総主教庁との関係に関する言及はすべて削除されました。実際、その内容においてUOCの規則は現在、独立教会の規則になっています」と述べている。