米テスラ社の最高経営責任者(CEO)で、2002年に米スペースX社を設立した億万長者のイーロン・マスク氏が、キリスト教や政治問題、日常生活などをテーマにした人気キリスト教系風刺サイト「バビロンビー」のポッドキャスト(英語)に出演した。信仰熱心というわけではないものの、約1時間40分にわたりインタビューに応じ、イエスの教えに対する自身の考えについても語った。
マスク氏はインタビューで、バビロンビーのCEOであるセス・ディロン、編集長のカイル・マン、クリエイティブディレクターのイーサン・ニコルの3氏から質問を受け、社会的不公平に対する意識や、十分納税していないとしてマスク氏を批判していたエリザベス・ウォーレン上院議員(民主党)、富裕層への課税などについて議論した。
インタビューの最後の質問でニコル氏は、マスク氏にイエス・キリストを「個人的な主、また救い主」として受け入れるかどうかを尋ねた。
「ここで最後の質問をして時間を引き延ばそうと思います。バビロンビーはキリスト教の組織で、宣教団体です」とニコル氏。するとマスク氏はすかさず口を挟んで、「どうして日曜日の夜にこんな番組をやっているんですか。皆さんは異教徒?どうして教会にいないのですか。神は日曜日に働くなと言ったじゃありませんか。これで皆さんは地獄にまっしぐらですね」とコメントし、笑いを誘った。
それでもニコル氏は、「まさにそうです。だから私たちは、安息日となるような教会をつくらないといけないのです。私たちは(今日は)ZOOMで礼拝をしました。私たちがそうしたように、教会は安息日のようであるべきなのですが、そうした教会をつくるために、この番組内で、イエスをあなたの主、また救い主として受け入れていただけたらなと思っているのです」と続けた。
これに対しマスク氏は、言葉を選びながらも、赦(ゆる)しや「自分が願うように人を扱うこと」など、「イエスが提唱した原則」に賛同していると言い、「ご存じの通り、イエスの教えには偉大な知恵があります」と語った。「『目には目を』とは対照的に、(頬をたたかれても)もう一方の頬を差し出すといったことは非常に重要です。『目には目を』を実行したら、誰もが盲目になってしまいますから」。その上で、アルベルト・アインシュタインのように、「私はスピノザの神を信じています」と言い、理神論を信奉していることをうかがわせた。
マスク氏が引用したのは、1921年にアインシュタインがニューヨークのシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)で語ったとされる言葉だ。アインシュタインは当時、「私はスピノザの神を信じている。それは、この世界の秩序ある調和の中に自身をあらわされる神であって、人間の運命や行動にかかわる神ではない」と語ったとされている(関連記事:【科学の本質を探る①】アインシュタインは「スピノザの神」の信奉者 阿部正紀)。
一方でマスク氏は、「でも、もしイエスが人を救っているのなら、私はイエスの邪魔をするつもりはありませんよ。当然、私は救われるでしょう。間違いなくね」と続けた。この答えにニコル氏は、「彼は今、『はい』と答えたんだと思うよ。やったね!」と言い、3人はマスク氏の応答を歓迎した。
マスク氏はこの他、すでに幼い時に洗礼を受けていることや、聖餐式に参加した経験、日曜学校で聞いた聖書の話などについても言及した。
マスク氏は過去に、スペースX社の計画をめぐる発言の中で、2020年にカプセル型宇宙船「クルードラゴン」がメキシコ湾に着水した後、祈ったことを明かしている。「私は、それほど信心深くはないのですが、このことのためには祈りました」とマスク氏は当時のスピーチで述べている。
一方でマスク氏はこれまで、しばしば無神論者あるいは不可知論者だといわれてきた。
2013年に米俳優レイン・ウィルソンとのインタビューの中で、崇拝しているもは何かあるかと尋ねられたマスク氏は、「本当に崇拝しているもはない」が、「テクノロジーを使った人類の進歩」に身をささげていると回答。祈ったことがあるか尋ねられると、マラリアで死にかけたときにも祈らなかったと答えている。