視聴者約250万人の動画チャンネルを運営するメンタリストのDaiGo氏が、ホームレスや生活保護受給者の命を軽視する発言を配信し、ネット上で炎上、著名人や団体などから批判されている問題で、困窮者への支援をしてきたNPO法人「抱樸(ほうぼく)」が16日、公式サイトに見解を掲載し、命の普遍的価値を訴えた。
理事長で牧師の奥田知志(ともし)氏は、「おんなじ いのち」をスローガンに、路上生活者や困窮状態に置かれた人々と向き合ってきた抱樸の33年間の活動に触れ、今回のDaiGo氏の発言は「命の尊厳そのものに対する否定」「差別扇動」「命の分断」であり、到底容認できないとした。また、これがさらなる偏見や差別、社会的排除、ヘイトスピーチ、憎悪犯罪へとつながることを危惧し、「間違いである」とした。
DaiGo氏の発言の問題点として、1)命の普遍的価値を認めていない、2)ホームレスや困窮を個人の問題(自己責任)とし経済状況など社会的要因を考えていない、3)社会の存在自体を否定している、4)困窮やホームレス状態にある人々に対する偏見や憎悪を誘発する、5)困窮状態にある人や生活保護受給者、ホームレスを「犯罪」予備軍のように捉えている、などを挙げた。
共通の知人から紹介された奥田氏は、DaiGo氏の発言が深刻な問題となっていることを知り、誠実な学びが必要であること、また本当に学び、変わりたいという気持ちがあるのであれば、関係する資料を送ることを伝え、時期を見て抱樸に学びに来ることも提案したという。
学びについて奥田氏は、単なる知識の上塗りではなく、自分の闇を見つめ、批判し、自分のしてしまったことやそれまでの在り方を否定するものだと強調。その上で、今回傷つけた人々の痛みを全身で感じてほしいと述べた。また、このような学びをDaiGo氏本人が心から望んでいるかどうかを問い掛けるとした。
DaiGo氏からは、寄付の呼び掛けも可能だとする話があったというが、謝罪と学びに集中すべきだとして、奥田氏は断ったという。一方で、学びに当たって、途中経過を配信ネタにしないこと、抱樸の宣伝、応援、寄付を一切しないことを条件として課した。しかし、その日の夜に、DaiGo氏が動画を配信したため、奥田氏は再び条件を再確認。DaiGo氏は「今後はこの件に関して一切の情報発信はしません」と約束した。新型コロナウイルスの感染状況により、DaiGo氏が抱樸の活動を直接訪問することは当面できないが、行う場合も当事者のいる場所では最大限の注意、準備、同意を前提として行うという。
この見解は発表時、公式サイトのサーバーがダウンするほど大量のアクセスが集中し、一時的に他の文書配信サービスに転載するほどだった。見解の発表を伝えた奥田氏と抱樸のツイッターへの投稿は、合計で9千回以上拡散され、1万7千件を超える「いいね」が寄せられた。
問題となったDaiGo氏の配信は7日。ネット炎上に加え、著名人らの批判が続き、13日には厚生労働省が公式ツイッターに「生活保護の申請は国民の権利です。生活保護を必要とする可能性はどなたにもあるものですので、ためらわずにご相談ください。相談先は、お住まいの自治体の福祉事務所までご連絡をお願いします」と投稿。3万2千回拡散され、4万2千の「いいね」が寄せられた。
14日には、生活保護問題対策全国会議、一般社団法人「つくろい東京ファンド」、新型コロナ災害緊急アクション、一般社団法人「反貧困ネットワーク」の4団体が連名で緊急声明を発表。奥田氏が理事長を務め、日本各地の困窮者支援団体が加盟するNPO法人「ホームレス支援全国ネットワーク」も18日、公式サイトで見解を発表した。