新型コロナウイルスによる経済的影響で今後多くの生活困窮者が出ることを懸念し、NPO法人「抱樸(ほうぼく)」が28日、目標金額1億円のクラウドファンディング(CF)を始めた。抱撲の活動拠点は福岡県北九州市だが、各地の支援団体と連携することで、全国規模の活動を計画。収束後も継続的な支援が必要となることを見据え、今助けを必要としている人々への緊急支援だけでなく、より長期的な支援を可能にする仕組み作りを進めていく。
28日にはオンライン会見を開催し、理事長で牧師の奥田知志(ともし)氏と、今回のプロジェクトで資金提供する村上財団創設者の村上世彰(よしあき)氏が出席。奥田氏がプロジェクトの概要を説明するとともに意気込みを語り、協賛する著名人が動画メッセージやコメントを寄せ、協力を呼び掛けた。
「困窮している人たちが何に困っているのか、何を必要としているのか、それを見極めることが一番大切」。奥田氏は32年にわたる活動経験から、家(ハウス)がないことに象徴される経済的困窮としての「ハウスレス問題」と、家族など基盤となる居場所(ホーム)がない社会的困窮としての「ホームレス問題」の2つがあることを説明。日本の社会的孤立者の割合が15・5パーセントと、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で最も高いことを挙げ、経済的な支援ばかりでなく、人々を孤立させない活動の重要性を語った。
新型コロナウイルスの感染による死も脅威だが、外出・営業自粛により経済的に困窮し、自殺へと追い込まれてしまう「コロナ関連死」も危惧。1997年のアジア通貨危機や2008年のリーマンショックなど、近年の金融危機でホームレス、自殺者が急増した経験から、「これを見据えた対策を早めに打たなければならない」と訴えた。
具体的には、政府が支給するマスクや特別定額給付金を受け取れない人々へのマスクや食糧・生活物資の提供、居住場所がない人々への居住場所の提供など、緊急支援を実施。一方、支援者も感染から身を守る必要があるとし、マスクやテレワークでの相談を可能とするためのタブレット端末などを支給する。奥田氏は、困窮者支援では経済的・物質的支援と相談がセットになっている必要があると強調。新型コロナウイルス禍においては、「医療崩壊」だけでなく「相談崩壊」も食い止めなければならないと訴えた。
さらに、全国に840万戸あるとされる空き家を有効活用し、「支援付き住宅」の提供も行う。緊急時はホテルやシェルターの活用も重要だが、新しい生活の構築には生活の基盤となる住居が欠かせない。空室があっても身寄りのない単身者に対しては貸し出しを渋る大家は多く、支援団体が空き家を借り上げる形で、まずは全国の主要5都市で100戸程度の住宅確保を目指すという。奥田氏は、こうした取り組みを通して今後の地域社会の在るべき姿を模索していきたいと言い、「コロナの勢いに負けないスピード感を持って臨みたい」と語った。
「Stay Home ということが今、盛んに言われています。しかし、家にいれない人、そもそも家がない人、働かざるを得ず今日も仕事に出ている人もいます。家にいれる人はぜひ家にいてください。家にいることは、確かにあなたの健康を守ることであり、人にうつさないことであり、多くの人を守ることでもあります。しかし、それだけでいいのか、という思いが正直あります。家からできることがあるのではないか。まさに From Home。サポートを家からできないのか。そのことを一緒に考えていただきたい」
村上氏は、奥田氏との出会いについて話した上で、抱樸の働きに非常に共感し、昨年夏から活動をサポートしていることを説明。村上財団は別のNPO法人とも協力し、医療機関へのマスク提供などを目的としたクラウドファンディングも行っており、こうした活動を通して「寄付の輪を広げていきたい」と語った。
会見には、音楽家のマヒトゥ・ザ・ピーポーさんや脳科学者の茂木健一郎氏が動画でメッセージを寄せた。茂木氏は「居場所を作る試みは本当に大切だと思う。これからの世の中で一番大切なことの一つ」と指摘。脳科学の立場から、人々が物事に挑戦するには「安全基地」が必要で、社会的弱者だけでなく、すべての人にとって安全基地としての居場所が必要だと訴えた。
会見ではこの他、小説家の平野啓一郎氏、建築家の手塚貴晴氏、作家の田口ランディさん、批評家・随筆家の若松英輔氏ら賛同者によるコメントも読み上げられた。
カトリック信徒の若松氏は、「世の中のいたるところに不条理と不平等がある。新型コロナウイルスの脅威は、それを作り出したというよりも白日のもとにさらした。隠れていたものを暴き出したのである」とコメント。しかし「『いのち』だけはいつも、どんな場所でも平等でなくてはならない。その不文律の中にとどまろうと試みることだけが、この世界をどうにか支えている。今回の試みは、その原則にどこまでも忠実であろうとする者たちの挑戦に他ならない」として、プロジェクトへの参加を呼び掛けた。
寄付の受け付けは、クラウドファンディングサイト「レディーフォー」で7月27日までの3カ月間。金額は千円から1千万円まで13種類が設定されている。抱樸は認定NPO法人であることから、寄付は税制優遇の対象となり、すべての寄付者には活動報告と共に寄付控除で使用可能な領収書が送られる。また10万円以上の寄付者には、奥田氏とのオンライン会議の案内も送られる。さらに今回は計3千万円を上限に、寄付された同額を村上財団が寄付する「マッチング寄付」が適応される。そのため、一般からの寄付3千万円までは、寄付金が2倍となって抱樸に送られることになる。寄付はこちらから。