国連が定めた「人身取引反対世界デー」(7月30日)を前に、世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会が27日、「人身取引反対声明」を発表した。被害者が世界で4千万人を超えるとされる人身取引は、技能実習制度や性的搾取の問題がニュースで取り上げられる日本も無縁ではない。声明は、誰もが自覚の有無を問わず加害者になり得る問題だとし、政府や企業、日本社会に対し「根絶に向けた早急の行動」を呼び掛け、同委として今後取り組む行動を表明した。
日本は、米国務省の「人身取引報告書」で毎年改善が求められており、2021年版でも取り組みの不足や努力の不十分さが指摘されている。声明は、政府や企業、日本社会に対し「人身取引の全面的防止、被害者の救出、被害者の尊厳の回復、被害者の社会への再統合、加害者への対策強化という法的措置も含めた基本的な対応の徹底的な実施」を要求。同委としては今後、①啓発活動、②アドボカシー活動、③NGO・市民団体などとの連携、④被害者支援の4つを柱に取り組むとした。
同委の人身取引防止タスクフォース(TF)の代表者らはこの日、内閣府を訪問。政府の人身取引対策推進会議を担当する森本敦司参事官に声明を手渡すとともに意見を交換した。訪問後は日本プレスセンタービルで記者会見を開催。同委の篠原祥哲(よしのり)事務局長は、政府も人身取引を重大な人権侵害と認識している一方、幅広い取り組みが必要な課題であり現在の対応が不十分であることも認識していたとし、助言や情報提供を含め協力を求められたことを伝えた。
記者会見には、人身取引防止TFのメンバーとして、ベリス・メルセス宣教修道女会のシスターである弘田しずえ氏とカトリック信徒の小宮山延子氏も出席。弘田氏は「人身取引は絶対あってはならない問題であり、グローバルな問題。送り出し国と受け入れ国、また中間国があり、それぞれの政府と民間の協力が不可欠」と指摘。日本は人権意識の低さが海外から批判されている状況があるとし、「人間を基軸とした法整備と具体的な対策を講じることがない限り、21世紀の世界のリーダーとして活躍することは不可能だと思う」と話した。
東京・四谷の聖イグナチオ教会の信徒である小宮山氏は、同教会でも年々外国人労働者が増えていることを紹介。こうした外国人労働者により日本の経済が支えられているにもかかわらず、劣悪な労働条件で働かされている現実があるとし、改善の必要性を訴えた。その上で、ローマ教皇フランシスコの言葉を引用しつつ、「共に生き、共に働き、共に生活し、喜びを分かち合う生き方がグローバルな生き方ではないか」と問い掛けた。
同委の人身取引防止TFは昨年発足したばかり。発足後の1年間は、オンラインシンポジウムや国内外の支援現場をオンラインで訪問するスタディーツアーを開催するなどして、人身取引に関する学びを深めてきた。今回の声明にもこれまで学んできた内容が反映されており、希望を抱いて来日した外国人技能実習生が、劣悪な労働環境と苛烈ないじめに遭遇し、「日本は好きだったのに、今は日本人が怖い」と話す現実があることなどを盛り込んでいる。
人身取引防止TFが発足したのは、同委の和解の教育TFが2年前、フィリピンのミンダナオ島を訪問した際、人身取引の問題に直面したことが一つの契機となった。「買う」側が存在するから「売る」側も存在するのが人身取引。主に貧困により子どもが人身取引の犠牲になっているフィリピン現地の人々から「この問題は先進国の問題」だと指摘されたという。
人身取引防止TF責任者の宍野史生氏(神道扶桑教管長)は、人身取引は日本でも昔からある問題であり、それに長年目をつぶってきた現実があると指摘。「この問題について経済界、一般の地域住民の指導者たちが声を出して言えるでしょうか。言えないからこそ、われわれは声を出して言う使命がある。信仰者だから言える、その使命を果たしていきたい」と力を込めた。
声明は内閣府のほか、国連の人身取引問題窓口となる国連薬物犯罪事務所(UNODC)にも提出した。WCRPは世界90カ国以上で活動する国際組織で、同委は今後、国内外に広がる宗教者間のネットワークを用いて活動を進めていくという。