米首都ワシントンにある「聖書博物館」の設立に携わった米企業が、盗用されたとされる聖書のパピルス片をめぐって、英オックスフォード大学元教授の米国人男性を相手取り、約710万ドル(約7億8千万円)の返還を求める訴訟を起こした。
訴えられたのは、オックスフォード大の古典学の教授であったダーク・オビンク氏(64)。エジプトやスーダンで活動する「エジプト探査協会」(EES、本部・ロンドン)が所蔵する古代聖書のパピルス片を許可なく、当時、同博物館の設立準備を行っていた米小売チェーンのホビー・ロビー社に販売したとされる。同社は、福音派のグリーン一家が経営する企業として知られ、社長のスティーブ・グリーン氏は同博物館の理事長を務めている。
オビンク氏は2016年まで、EESが所蔵する「オクシリンコス・パピルス」(エジプト中部オクシリンコスで発見されたパピルス文書群)の総責任者を務めていた。しかし、オックスフォード大のサックラー図書館に所蔵されていたEESの古代遺物コレクションから、パピルス片120点を盗んだとされ、昨年、窃盗と詐欺の疑いで逮捕された。現在釈放されているものの、捜査は継続して行われている。オビンク氏は当時、容疑を否認し「私の評判とキャリアを傷付けようとする悪意ある試み」だと非難していた。
英タイムズ紙(英語)によると、オビンク氏は2010年から13年の間に、貴重なパピルス片や古代遺物などを計7回にわたり同社に販売した。しかし、同社がオビンク氏から購入したパピルス片のうち32点は、オビンク氏が所有するものではなく、EES所蔵のものだった。オビンク氏は当時、パピルス片は個人の収集家から入手したものだと述べていたという。
同社は昨年、希少な楔(くさび)形文字の石板を、合法性を偽って同社に販売したとして、世界最大手の競売会社「クリスティーズ」を提訴した。石板はギルガメシュ叙事詩の一部が記されたものだったが、不法に取得されたものだとし、米国土安全保障調査局が返還を要請していた。同社はクリスティーズと「ジョン・ドウ」と名乗るディーラーに対し、石板取得に必要となった約170万ドル(約1億8千万円)の返還などを求めている。
この他、聖書博物館は今年初め、所蔵する写本やパピルス片など計約5千点について、入手の合法性に疑義が生じたとし、エジプトに返還すると発表している。これらの遺物は、2010~12年に起こった「アラブの春」の際、米国に不法に持ち込まれたと考えられている。