イスラエルのエルサレム遺産省は16日、約1900年前の聖書の断片が発見されたと発表した。「死海文書」の発見以来、この種の発見は約60年ぶり。この他、約6千年前の子どもの遺骨やユダヤ教のシンボルが刻まれた貴重な硬貨、約1万500年前の世界で最も古いとされる編みかごも発見された。
同省の発表(ヘブライ語)によると、聖書の断片はイスラエルとパレスチナのヨルダン川西岸地区にまたがるユダヤ砂漠の洞窟で発見された。この洞窟は、雨季のみ水が流れる季節河川「ナハル・へーバー」の崖にある横穴で、ローマ帝国に対しユダヤ人が起こした「バル・コクバの乱」(第2次ユダヤ戦争、132~135年)で、ユダヤ砂漠に逃れた人々が避難した場所と考えられている。崖の頂上から約80メートル下に位置し、ロープを使って崖を降りなければ中に入れず、かつての発掘作業で人骨40体が発見されたことから、「恐怖の洞窟」と呼ばれている。
タイムズ・オブ・イスラエル紙(英語)によると、発見された断片は、旧約聖書の「十二小預言書」と呼ばれる預言書のうち、ゼカリヤ書とナホム書の一部。2人の異なる人物による写本とみられ、本文はギリシャ語で書かれているものの、神の名前のみヘブライ語で書かれていた。これまでに、ゼカリヤ書8章16~17節とナホム書1章5~6節の計11行分が復元されている。
両カ所は、日本語の聖書(新共同訳)では次のように記されている。
「あなたたちのなすべきことは次のとおりである。互いに真実を語り合え。城門では真実と正義に基づき、平和をもたらす裁きをせよ。互いに心の中で悪をたくらむな。偽りの誓いをしようとするな。これらすべてのことをわたしは憎む」と主は言われる。(ゼカリヤ8:16~17)
山々は主の御前に震え、もろもろの丘は溶ける。大地は主の御前に滅びる。世界とそこに住むすべての者も。主の憤りの前に、誰が耐ええようか。誰が燃える御怒りに立ち向かいえようか。主の憤りが火のように注がれると、岩も御前に打ち砕かれる。(ナホム1:5~6)
今回発見された断片は、1953年に恐怖の洞窟を最初に調査した考古学者、故ヨハナン・アハロニ氏が発見した9つの断片と共に、より大きな聖書の巻物の一部を構成するとみられている。アハロニ氏が発見した断片も、神の名前のみがヘブライ語で書かれており、いずれも第1神殿時代(紀元前10~6世紀)に使われていた古代ヘブライ文字が使用されていた。この古代ヘブライ文字は、バル・コクバの乱の信奉者が貨幣などに使用していたほか、死海文書を記したクムラン教団でも用いられていたという。伝統的なヘブライ語聖書のテキスト「マソラ本文」とは異なることから、イスラエル考古学庁は聖書テキストの伝承を考察する上で重要な史料になるとしている。
恐怖の洞窟からは、聖書の断片の他に約6千年前の子どもの遺骨も見つかった。遺骨は、胎児のように足を縮め、手は胸の前に収められていた。6~12歳の少女のものとみられ、頭部と上半身を小さな毛布のような布で包まれていた。洞窟内の環境により自然にミイラ化しており、皮膚や腱、髪の毛の一部も残っていたという。
また、ユダヤ砂漠から死海に流れる季節河川によってできたナハル・ダルガ渓谷の洞窟からは、蓋付きの大きな編みかごが発見された。放射性炭素年代測定により約1万500年前のものと判定され、完全な形で発見された編みかごとしては世界最古。容量は90~100リットルあり、陶磁器が発明される約千年前の貯蔵方法を知る上で貴重な史料となる可能性がある。一方、中身は空で、何に使われていたかは今後の調査によるという。
一連の発掘調査は盗掘被害防止策として、エルサレム遺産省が資金を提供し、イスラエル考古学庁が主導して2017年から行われている。