コロサイ書の本文をお伝えするのは、今回が最後になります。
10 わたしと一緒に捕らわれの身となっているアリスタルコが、そしてバルナバのいとこマルコが、あなたがたによろしくと言っています。このマルコについては、もしそちらに行ったら迎えるようにとの指示を、あなたがたは受けているはずです。11 ユストと呼ばれるイエスも、よろしくと言っています。割礼を受けた者では、この三人だけが神の国のために共に働く者であり、わたしにとって慰めとなった人々です。12 あなたがたの一人、キリスト・イエスの僕エパフラスが、あなたがたによろしくと言っています。彼は、あなたがたが完全な者となり、神の御心をすべて確信しているようにと、いつもあなたがたのために熱心に祈っています。13 わたしは証言しますが、彼はあなたがたのため、またラオディキアとヒエラポリスの人々のために、非常に労苦しています。14 愛する医者ルカとデマスも、あなたがたによろしくと言っています。
15 ラオディキアの兄弟たち、および、ニンファと彼女の家にある教会の人々によろしく伝えてください。16 この手紙があなたがたのところで読まれたら、ラオディキアの教会でも読まれるように、取り計らってください。また、ラオディキアから回って来る手紙を、あなたがたも読んでください。17 アルキポに、「主に結ばれた者としてゆだねられた務めに意を用い、それをよく果たすように」と伝えてください。18 わたしパウロが、自分の手で挨拶を記します。わたしが捕らわれの身であることを、心に留めてください。恵みがあなたがたと共にあるように。
4章10節から14節は、パウロの同労者からのあいさつで、ここでの人名はフィレモン書23~24節に登場する人物と重なっています。フィレモン書に書かれた人物はすべて登場し、ユストと呼ばれるイエスのみが新たに追加されている形になっています。そのことから、コロサイ書が偽名書簡であるとしても、この人たちがパウロの「同労者サークル」の一員であったことは明らかです。
フィレモン書においては、暗にオネシモの奴隷からの解放を後押ししていたこのサークルが、コロサイ書においては、ゲルト・タイセンが示唆するように、コロサイ教会に侵入してきた「特定の『哲学』(2:8)と闘っている」(ゲルト・タイセン著『新約聖書』198ページ、第33回参照)ということを意味しているのかもしれません。そうなりますと、一つのサークルが、時間差を持って、同じ相手教会に対して「奴隷解放の後押し」と「特定の哲学との闘い」をしているようにも読めて、このことは、私の持論であります「フィレモンの家の教会とコロサイ教会は同一である」ということの裏付けにもなるのかもしれません。
15節には、「ラオディキアの兄弟たち、および、ニンファと彼女の家にある教会の人々によろしく伝えてください」とあります。「ニンファの家の教会」は、ラオディキア教会自体のことかもしれませんが、ラオディキアに別の家の教会があったのかもしれません。もっとも、「ラオディキアの兄弟たち」と「ニンファと彼女の家にある教会」が併記されていて、13節で、エパフラスが「ラオディキアとヒエラポリスの人々のために、非常に労苦しています」として、両教会が併記されていることからしますと、「ニンファと彼女の家にある教会」とは、ヒエラポリスの教会のことかもしれません。
いずれにいたしましても、ニンファというのは女性の名前と考えられます。初代教会は、特に異邦人教会はおそらくすべてが、家の教会として始められました。新約聖書の中で、その家の教会が女性によって運営されていたと思われるところは幾つかあります。使徒言行録16章11~15節には以下のようにあります。
11 わたしたちはトロアスから船出してサモトラケ島に直航し、翌日ネアポリスの港に着き、12 そこから、マケドニア州第一区の都市で、ローマの植民都市であるフィリピに行った。そして、この町に数日間滞在した。13 安息日に町の門を出て、祈りの場所があると思われる川岸に行った。そして、わたしたちもそこに座って、集まっていた婦人たちに話をした。14 ティアティラ市出身の紫布を商う人で、神をあがめるリディアという婦人も話を聞いていたが、主が彼女の心を開かれたので、彼女はパウロの話を注意深く聞いた。15 そして、彼女も家族の者も洗礼を受けたが、そのとき、「私が主を信じる者だとお思いでしたら、どうぞ、私の家に来てお泊まりください」と言ってわたしたちを招待し、無理に承知させた。
新共同訳聖書では「フィリピで」という小見出しが付けられている箇所で、パウロたちが、今日のギリシャ東部のフィリピに行ったときの出来事が記されています。「神をあがめるリディアという婦人」がパウロの話を注意深く聞いていたとあります。「神をあがめる人」とは、異邦人の中でユダヤ教シンパサイザーとなっていた人のことです(荒井献著『使徒行伝(中巻)』357ページ参照)。
そして、「リディアも『家族の者(オイコス / οἶκος)』も洗礼を受けた」とありますが、これはリディアの話の次にある、フィリピでのパウロとシラスの投獄と解放の話において、2人が看守に語った言葉「主イエスを信じなさい。そうすれば、あなたもあなたの『家族(オイコス / οἶκος)』も救われます」(16:31)と、「まだ真夜中であったが、看守は二人を連れて行って打ち傷を洗ってやり、自分も『家族の者(オイコス / οἶκος)』もすぐに洗礼を受けた」(同33)という出来事と、同じことを意味するメッセージです。これらのメッセージは、やがて「『家(オイコス / οἶκος)』の教会」がリディアと看守の家に誕生することを意味しているのでしょう。
リディアを指導者とする家の教会ができるということです。使徒言行録が執筆されたときには、家の教会ができていたからこそ、リディアがパウロの話を注意深く聞いていた話がそこに記されたのだと思います。ここに一つ、女性が運営していた家の教会が浮かび上がります。
また、看守の家族が洗礼を受けたという話と合わせますと、フィリピに2つの家の教会ができたということであり、パウロによって書かれたフィリピ書の宛先諸教会のうち、先駆けとなった2教会とも考えられます(前掲『使徒行伝(中巻)』387ページ参照)。
第1コリント書1章11節には、「クロエ家の人たち」とありますが、これはコリントの家の教会の一つでしょう。クロエも女性名です。そして第2ヨハネ書1節には、「長老の私から、選ばれた婦人とその子たちへ」とありますが、これも家の教会を運営する婦人とその教会の信徒たちへの手紙であることを指しているものと考えられます。初代教会においては、女性の働きが大きかったということです。
16節には、「この手紙があなたがたのところで読まれたら、ラオディキアの教会でも読まれるように、取り計らってください。また、ラオディキアから回って来る手紙を、あなたがたも読んでください」とあります。私は、ひょっとしたら「ラオディキアから回ってくる手紙」とされている書簡が、実際にパウロ本人から送られてきたものであり、ティキコとオネシモはその手紙を運んで来て、コロサイ書はそれを元にして書かれた偽名書簡なのではないだろうかと「推理」しています。
つまり、本来コロサイ教会とラオディキア教会宛てに書かれたパウロの真性の手紙を、ティキコとオネシモに先にラオディキアに運ばせ、そのパウロの手紙を元にして、フィレモンがコロサイ書という偽名書簡を執筆し、両者を回覧させたのではないだろうかというのが、私の「推理」であるということです。
ちなみに、黙示録3章14~21節には「ラオディキアにある教会の天使にこう書き送れ」としてメッセージが記されていますので、ラオディキア教会は黙示録が執筆されたとされる紀元90年代にも、おそらく相当大きな教会として存在していたと考えられます。
17節には、「アルキポに、『主に結ばれた者としてゆだねられた務めに意を用い、それをよく果たすように』と伝えてください」とありますが、アルキポはフィレモン書2節に「戦友アルキポ」として記されています。アルキポのことは、第4回でこのコロサイ書4章17節と関連付けてお伝えしています。「アルキポに伝えてください」とあるのは、フィレモン書執筆時にはフィレモンの家の教会=コロサイ教会に在住していたアルキポが、すでに他の教会に行っていることを意味します。ラオディキア教会かヒエラポリス教会に滞在して、そこで家の教会の牧者を支えつつ、御言葉を語っていたのでしょう。いずれにしましても、アルキポの「主に結ばれたものとしてゆだねられた務め」とは、第4回でお伝えしましたように、「福音宣教者(巡回宣教者)」としての務めでありましょう。コロサイ書が偽名書簡だとしても、このあたりの経緯は実話であると思います。
18節前半に、「わたしパウロが、自分の手で挨拶を記します。わたしが捕らわれの身であることを、心に留めてください」と記されています。これは、コロサイ書が偽名書簡だとしても、パウロが軟禁状態であった時のことを意味しているのでしょう。ことによると、ローマでの軟禁のことかもしれません。コロサイ書では、オネシモはパウロの元から派遣されたとされています。書評を書かせていただいた、タイセンの小説『パウロの弁護人』にもオネシモは登場していますが、そこではオネシモは、ローマで教会の指導者となっている設定になっています。
「恵みがあなたがたと共にあるように」という祝祷をもって、この手紙は結ばれています。次回は、コロサイ書全体から見えてくることをお伝えしたいと思います。(続く)
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