ミャンマーで軍によるクーデターが発生したことを受け、ミャンマーカトリック司教協議会会長のチャールズ・マウン・ボ枢機卿(ヤンゴン大司教)が3日、声明を発表した。
ボ枢機卿は、ミャンマーの歴史における「暗闇の瞬間」だと述べ、クーデターを起こした軍を非難。拘束されているアウン・サン・スー・チー国家顧問らの解放を求めた。その一方で、クーデターの原因は「対話とコミュニケーションの欠如」にあると指摘。米国などがかつて行っていた経済制裁は対話の機会を締め出し、ミャンマー国民ではなく、ミャンマーの資源を狙う超大国に利益をもたらすことになったと述べ、国際社会に対しては制裁を行わないよう求めた。
声明は、ミャンマー国民、軍、スー・チー氏ら国民民主連盟(NLD)の指導者、そして国際社会の4者に向けたメッセージで構成されている。ボ枢機卿は「歴史の中で最も困難な時代」を歩んでいると述べ、「すべての人々に愛を込めてこのメッセージを書きます」とつづっている。
ミャンマー国民へ
ミャンマー国民に対しては、「私たちは十分な血を流してきました。この土地でこれ以上血を流さないようにしましょう」と述べ、暴力的な方法に訴えないよう求めた。また「この最も困難な瞬間でさえ、私は平和が唯一の方法であり、平和は可能であると信じています」と述べ、憎悪の悪循環を断ち切る必要性を訴えた。その上で、すべての地域・宗教の指導者が平和的に対処できるよう祈り、励ますよう求めた。
ミャンマー軍へ
昨年11月に行われた総選挙で不正があったと訴え、クーデターを正当化している軍に対しては、「投票の不正申し立ては、中立的なオブザーバーのもとで、対話によって解決できる可能性がありました」と指摘。「しかし、素晴らしい機会が失われました。世界の多くの指導者はこの衝撃的な動きを非難しており、今後も非難するでしょう」と述べ、クーデターを起こした軍を非難した。
また、軍が不正に関する調査を行った上で総選挙を再実施すると表明していることについては、「ミャンマーの人々はこのような空の約束にうんざりしています」と切り捨て、国民から信頼を得るには、誠実に言動を一致させることが必要だと強調した。その上で、拘束されているNLDの指導者らは「民主的なプロセスの囚人」だとし、民主主義は彼らを解放することから始まると述べた。
スー・チー氏、NLD指導者らへ
NLDの指導者らに対しては、「あなた方は、この国に民主主義をもたらすための果てしない闘いの中で、この窮状に陥っています」と述べ、一日も早い解放を祈っていると伝えた。
スー・チー氏に対しては、ミャンマー国民のために生き、その人生を犠牲にしてきたとし、「あなたはいつも私たちの人々の声になるでしょう」「あなたは国の母なる存在です」と伝えるとともに、「神は真実に対する究極の審判者です」と励ました。しかし一方で、現在の状況は「対話とコミュニケーションの欠如、そして互いの受容の欠如が原因で起こっている」と述べ、スー・チー氏らNLD側にも対話の姿勢を求めた。
国際社会へ
国際社会に対しては、クーデター発生後のこれまでの応答に感謝を示す一方、経済制裁を長年受けてきたミャンマーの歴史を踏まえ、「制裁と非難はほとんど結果をもたらさず、むしろそれらは対話への扉を閉じ、対話を締め出しました」と指摘。さらに制裁は、ミャンマーの資源を狙う超大国に大きな利益をもたらしてきたとし、「関係者が私たちの主権とそれらを物々交換させないよう強く願います」と述べた。
その上で、制裁はミャンマー経済を破壊させ、何百万人もの人々を困窮に陥れる危険性があるとし、「和解に人々を関与させることが唯一の道です」「平和は可能です。平和が唯一の方法です。民主主義はその道への唯一の光です」と訴えた。
ボ枢機卿はアジア司教協議会連盟の会長のほか、世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)の国際委員会共同会長やミャンマー委員会顧問を務めており、声明は国際委員会を通じて発表された。
世界宗教者平和会議、国際・日本の両委員会が声明
ミャンマーのクーデターをめぐっては、世界宗教者平和会議の国際委員会と日本委員会もそれぞれ独自に声明を発表した。
国際委員会は声明でミャンマー国民への連帯を示すとともに、「人々の民主的な願いを破壊するいかなる試みも非難します」と表明。軍に対しては、拘束者の即時解放と文民統治の回復、平和と和解に向けた努力の継続を求めた。
5年前からミャンマー委員会と合同プロジェクトなどを行ってきた日本委員会は声明で、ミャンマー委員会が求める「暴力的な解決ではない、対話と交渉による平和構築」への全面的な支持を表明。その上で「ミャンマーのいち早い民主主義と平和の回復に向けた関係各国・各機関のあらゆる努力を要請します」とした。