イスラム系少数民族「ロヒンギャ」をめぐる問題で、ミャンマーのカトリック教会トップが、沈黙を守っている同国の事実上の最高指導者であるアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相に対し、「はっきり語っておくべきだった」などと述べ、問題への対応を迫った。その一方で、メディアによるスー・チー氏批判は、長期的な解決にはならないとの見解を示した。
ヤンゴン大司教のチャールズ・マウン・ボ枢機卿は、ロヒンギャの人々が長年にわたって極度の苦難に直面し、さらにその状況が虐待と看過により悪化してきたと述べ、この問題に対する政府の介入を求める国際世論に賛同した。
「世界は、民主主義のために苦闘していた頃と同じレンズでスー・チー氏を見ています」「スー・チー氏は、今では政府の一員であり政治的指導者です。(そのような立場にある)スー・チー氏は、確かにはっきり語っておくべきだった」と、ボ枢機卿は電子メールで米タイム誌(英語)に語った。
しかしその一方で、ボ枢機卿は、スー・チー氏の立場とミャンマーの政治情勢を理解するよう促した。「スー・チー氏は、危険な綱渡りをしています」「軍による支配の復活を求めて、すでに闇の勢力が騒ぎ立てています」とボ枢機卿は言う。
ボ枢機卿は、スー・チー氏が今もミャンマーの希望だと考えており、「スー・チー氏に不快感を与え、メディアを通じて彼女を攻撃することは、長期的な解決にならない」と話す。「偽の措置はスー・チー氏を政府から追い出すことになり、それは民主主義の夢を終わらせることになるでしょう。私たちは、ミャンマーの歴史の中で、軍が3度も民主主義を後退させたことを記憶に留めておくべきです」
この問題をめぐっては、国連のゼイド・ラアド・アル・フセイン人権高等弁務官が、「民族浄化の典型例のように見える」などと述べ、ミャンマー政府側を強く非難している。しかし、ボ枢機卿はこうした発言をけん制し、次のように語った。
「ミャンマー政府は、ロヒンギャを国内の少数民族としてではなく、バングラデシュからの不法侵入者の一団として認識しています。この背景の中では、今の状況をイスラム共同体に対する民族虐殺とか民族浄化と形容しないほうが現時点においては望ましいのです」
「地域における緊張や怒りを緩和することが重要であり、どちらか片方だけを悪者にしない言葉遣いをすることが重要です」
国連による非難の声が高まる中、スー・チー氏は、12日から米ニューヨークの国連本部で始まった国連総会を欠席すると発表した。19日からは各国首脳らによる一般討論演説が行われるが、この日に合わせ、スー・チー氏はミャンマー国民に向けテレビ演説をする計画だ。
ミャンマー西部のラカイン州では8月25日、ロヒンギャの武装集団「アラカン・ロヒンギャ救世軍」(ARSA)が複数の警察施設を襲撃し、9人を殺害する事件が発生した。これを受けミャンマーの治安部隊は大規模な反撃を行ったが、フセイン氏はこの攻撃が「明らかに不相応」だったと述べている。
治安部隊による壊滅的な攻撃により、わずか3週間ほどの間に、約38万人のロヒンギャが国境を越えて隣国バングラデシュに避難した。さらに、国外に逃れたロヒンギャが戻れないよう、治安部隊が国境付近に地雷を敷設しているとの報道もある。
フセイン氏は、「(ミャンマー)政府に対し、現行の残虐な軍事作戦を終わらせ、発生したすべての違反行為について説明責任を果たし、ロヒンギャに対する深刻かつ広範な差別政策を転換するよう求める」と要求している。
ミャンマーには、約110万〜130万人のロヒンギャがいるとされており、その大半はイスラム教徒で、ミャンマーに数世代にわたって住んでいる。一方、大半が仏教徒で、軍部を掌握している多数派のビルマ民族は、ロヒンギャが国内で長期的な基盤を持っているのにもかかわらず、国民として認めていない。
スー・チー氏は、軍部の行動を非難するのを拒否しており、AP通信(英語)によると、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領との電話会談では、「テロリスト」を助ける安価な誤報キャンペーンがあるとして、強く非難した。トルコのメフメト・シムシェキ副首相は今月初め、亡くなったロヒンギャの写真をツイッターに投稿し、ミャンマー政府を非難していたが、後に写真は今回の問題とは関係のないものであることが分かり、削除している。スー・チー氏はこうしたフェイクニュースを批判し、シムシェキ氏もその被害者だと述べた。