米国立衛生研究所(NIH)所長で、世界的に著名な生命科学者であるフランシス・コリンズ氏(70)が、宗教界のノーベル賞と呼ばれる「テンプルトン賞」を受賞した。ヒトゲノム計画の責任者を務めたことで知られるコリンズ氏はクリスチャンで、信仰と科学の調和を目指す「バイオロゴス財団」の創設者でもある。9月24日にオンラインで開催された授賞式では受賞演説を行い、「争いはこの時代の風潮のようです。新型コロナウイルス関連に限らず、人種問題や気候変動、聖書解釈などの分野でも」と述べ、社会の分裂を語り調和を呼び掛けた。
新型コロナ感染症のワクチン開発に取り組む医師でもあるコリンズ氏は、演説で次のように語った。
「この深刻な脅威が今年初めに起きたとき、これが功を奏して(米国に)一致が生まれるに違いないという希望を私は抱いていました。以前、この国がテロの脅威に直面したときと同じように。しばらくの間はそのように見えていましたが、今の私たちをご覧ください。マスクを着用するという単純な行為でさえ、米国社会に激しい見解の相違をもたらしている始末です。その行為に感染拡大を遅らせるという公衆衛生上の価値があることに疑う余地がないにもかかわらずです」
分裂のもう一つの事例が、ワクチンをめぐる議論に見られるとコリンズ氏は指摘する。コリンズ氏自身は、睡眠時間を除くほぼすべての時間を新型コロナの検査と治療、ワクチン開発に費やしており、開発中のワクチンは間もなく「精密な」検査を受ける見込みだという。しかし「現在、この国には深刻な分裂が見られ、国民の半数がそのようなワクチンは接種しないと言っています」と続けた。「命を救うという名目で調和すべきだったものさえも争いになっています」
コリンズ氏はまた、白人警察官に殺害された黒人男性のジョージ・フロイドさんに話題を移し、次のような「逃れようのない痛ましい結論」に達したと述べた。
「私を含む多くの白人たちが、自分たちは見識があり、それ(人種差別)は過去のことになったと望んでいるにもかかわらず、(米国社会は)依然として組織的人種差別に深く根差しています。わが国の現状を考えると、400年にわたる奴隷制と差別の結果が依然としてあり、著しい変化が必要であることが分かります。しかし、全国民が同意するわけではないので、米国民の二極化は火を見るより明らかです」
その上で、分裂に対する答えは「真理と理性に再度コミットすること」と主張。部族主義やヘイト(憎悪)ではなく、互いに愛し合うという聖書的原則にあると語った。
社会におけるさまざまな変化が自身を悩ませているが、その中でも「高い水準の客観的事実を維持することを無視する傾向が高まっていること」が、何よりもの悩みだという。
「その枠組みを放棄するなら、社会に未来はありません。それにもかかわらず、ソーシャルメディアの影響も受け、フィクションよりも事実を擁護することや、陰謀論よりも正確な説明を擁護することの方が大きな打撃を被る事態になっています。すべての有識者は、このことに警鐘を鳴らすべきです」
コリンズ氏はまた、演説でさまざまな話題に触れる中、「極論」が依然として「多くの注目を集めている」が、信仰と科学の間に対立はないと強調した。
「皆さんは一方で、リチャード・ドーキンスのような新進の無神論者の主張を目にしています。彼らは『神を信じる単純な愚か者の頭を進化論というこん棒でたたく』というようなことをしいているのです」
「もう一方では、アンサーズ・イン・ジェネシス(「答えは創世記に」の意味)のような団体が、自分たちの聖書解釈に同意しない科学的説明はすべて間違っており、邪悪だとする原理主義的見解を唱えています」
創世記には、字義的な解釈以外の余地も残すべきだとコリンズ氏は提唱している。
「米国の過去150年間における最大の悲劇は、創世記の最初の数章に過度の字義的解釈を加えることが、まじめなキリスト教信仰のリトマス試験紙だと考えられてきたことです。1600年前、アウグスティヌスはそのような字義的解釈に警鐘を鳴らしています」
「創造にまつわる創世記の力強く神秘的な言葉は、私たちが何者で神がどのようなお方なのかを教えてくれますが、科学の教科書として書かれたものではないのです」