「新型感染症が与える影響と市民社会」と題したオンラインセミナー(庭野平和財団主催)が5日、開催された。6月末から続く4回シリーズの3回目で、この日は「新型コロナウイルス感染拡大への宗教者の対応のこれまでとこれから」がテーマ。IIHOE「人と組織と地球のための国際研究所」の川北秀人代表が進行役を務め、全日本仏教会の戸松義晴理事長と日本YWCAの西原美香子業務執行理事がそれぞれ、仏教界とキリスト教界の影響や対応などについて語った。
仏教界の対応
宗教法人は行政による休業要請の対象外ではあったものの、宗教施設がクラスター(集団感染)の発生源にならないよう自主的な対策が求められた。戸松氏によると、「3密」の回避や法要などの縮小・中止、一部施設の閉鎖など、仏教界で本格的な感染対策が始まったのは3月下旬ごろから。東京都など7都府県に緊急事態宣言が発令された4月7日には、全日本仏教会から加盟団体に対する「お願い」を発表し、感染症対策に最大限注意を払うよう促した。
戸松氏によると、この時期の一番の関心事は、感染症で亡くなった人の葬儀をどうするか、ということだった。全日本仏教会では、国の指針や医療機関、葬儀場の取り決めに従うよう伝えたが、これは事実上、遺族が故人に会えるのは遺骨になってからということを意味していた。そのため、できる限り遺族の意向を尊重し、気持ちに寄り添った配慮ある対応を求めた。
詳細な指針は各宗派が発信していたことから、全日本仏教会ではホームページ上でそれらをまとめて情報の一元化に務めた。各宗教の連合組織が加盟する日本宗教連盟内でも話し合いが行われ、万が一オーバーシュート(感染爆発)したときに備えて意見を交換。宗教法人が所有する土地や施設を提供するなど、医療知識が求められない協力の仕方や行政との連携について、宗教界として可能な対応について話し合った。
コロナによる仏教界への影響
5月には大正大学と協力して、全国の寺院や信徒を対象にアンケートを実施。500以上の回答を得、さまざまなことが明らかになった。葬儀・法要を控えているかを尋ねる質問では、「はい」と「いいえ」が共に49%で拮抗(きっこう)した。感染の広がりは地域によって異なり、また地方では都市部よりも寺院と檀家(だんか)の関係が深いことなどから、こうした対応の違いについて戸松氏は「地域差の表れ」と見ている。
73%が寺院の運営に不安を感じると回答し、77%が収入の減少を報告。収入が減少した寺院のうち約半数が50%以上の収入減だった。収入に関しても兼業の有無によって左右されることが多く、兼業している場合は大きな影響はないが、檀家中心の運営をしている場合は収入が大幅に減少したと説明した。
新型コロナウイルスの影響による今後の懸念については、葬儀・法要の簡略化や法要文化の衰退などを挙げた。一方で、新たに始まった取り組みとしては、オンラインによる対応や代理参拝などが挙げられるという。
求められる「新しい関係性の構築」
戸松氏は、アフターコロナの世界では「新しい関係性の構築」が求められると指摘。宗教界がこれまで提供してきた宗教サービスはある意味画一的だったとして、これからは個々の人々とつながっていくことが大切であり、「高所からの説教」ではなく「同じ目線に立った傾聴」がより重要になっていくと語った。
キリスト教界の対応
西原氏は、YWCAがキリスト教精神に深く結び付いた働きであることを説明した上で、日本のキリスト教界の対応について概略を語った。キリスト教の教会では、信徒同士の交流である「交わり」を非常に大切にしているが、これが新型コロナウイルスによって制限されることになった。日曜日に教会で礼拝をささげられないのも「戦争以来のことではないか」と西原氏。
緊急事態宣言下では、多くの教会がオンラインで礼拝を配信することで対応した。普段礼拝に参加できていなかった人が参加できるようになったという事例もあれば、逆に高齢者などオンラインに対応できない人は教会との間に距離感ができてしまうこともあった。緊急事態宣言が解除されてからは、地方の教会から順次、感染対策をしながら対面での礼拝が再開されていき、オンラインと対面を合わせた礼拝を行っている教会も多くある。
YWCAの取り組み
YWCAの取り組みとしては、オンラインの語り場「ウェブ・セーフ・スペース」をこれまでに5回開催した。外出の自粛が求められ、経済的にもさまざまな困難に直面する中、「一人ではない」ということを互いに実感する場として設けた。アルバイトを解雇され収入が減ったり、家族の外出自粛により家事労働の負担が増えたり、若い女性たちが抱える困難な状況を分かち合い、互いに心の内を吐き出す場になったという。
新型コロナウイルスの感染が広がる中、社会ではマスクの買い占めなどが発生したが、韓国YWCAでは「After You Campaign(お先にどうぞキャンペーン)」を展開。必要な人に必要な物が先に届くように呼び掛ける啓蒙運動で、キリスト教徒が多い韓国社会では大きな効果があったという。
この他国内の各YWCAも、「留学生の母親」運動の会が困窮する留学生に支援金を送ったり(東京)、臨時休校で孤立した子どもと保護者を支援する「ワイワイスクール」を開いたり(平塚)など、さまざまな取り組みを行った。「いずれの活動も日常的な活動の延長線上で行われている」と西原氏は言い、「活動の基盤があり、支援先の人の顔が見えているからこそ行える」と語った。
コロナ禍で見えてきたもの
一方、こうした支援活動の中から見えてきたものは、排除や孤立、格差社会だった。感染者を「排除」するのではなく、感染者に「配慮」する社会が必要だとし、「アフターコロナ、ポストコロナの社会の在り方を、声を大にして語っていくのが宗教者の役割」と訴えた。