クリスチャントゥデイは2002年の創立以来、多くの皆様に支えられ、5月20日で満18周年を迎えることができました。これまで長きにわたり、ご愛読・ご支援いただき、誠にありがとうございます。創立18周年を記念して、今年は新型コロナウイルスが世界を席巻している状況を踏まえ、「100年に1度のパンデミック、教会は何を問われているのか?」をテーマに企画を用意いたしました。コロナサバイバー、牧師、神学校教師、大学教授、政治家、ホームレス支援者など、さまざまな立場の方から寄稿を頂きました。第5回は、元草加市議会議員で、現在は妻である山川百合子・衆議院議員の事務所長を務めておられる瀬戸健一郎氏による寄稿をお届けします。
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私は主に申し上げよう。「わが避け所、わがとりで、私の信頼するわが神」と。主は狩人のわなから、恐ろしい疫病から、あなたを救い出されるからである。(詩編91篇2~3節)
静かに国民の生命を奪うサイレント・キラー
サイレント・ニューモニエ(無症状の肺炎)が静かに進行して肺が崩壊していく。重い症状に気付いたときには既に手遅れで死に至るという症例が世界中で報告されている恐ろしい疫病。それが新型コロナウイルス感染症です。既に感染者は世界で500万人を超え、死者も33万人に及びます(22日現在)。感染者の約8割が無症状もしくは軽症で済むという特徴から、無症状もしくは軽症の感染者が無自覚のまま感染を広げることになり、サイレント・キラー(静かな殺人鬼)とも呼ばれています。
ひと月で分かれた日英の対応策
教会の対応もそれぞれのようです。私の母教会は現在、ネット礼拝が毎週日曜日に行われていて、教会員同士が接触することはありませんが、それぞれ対策をしながら礼拝を実施している教会もあるようです。
私は昨年秋から英国のエセックス大学で政治理論修士の学びをしており、現在は一時帰国しているのですが、この間、日英の新型コロナウイルス対策の違いをつぶさに体感する機会に恵まれています。
国会議員となった妻・山川百合子と夫妻で招かれた2月23日の天皇誕生日宴会の儀のために3日間短期帰国した際には、日本から英国への再入国ができるかが心配でした。当時、一般参賀が中止となった日本と比べると、英国はまだ切迫感はありませんでした。しかしこの後、ちょうどひと月で事態は逆転します。
ジョンソン首相が陣頭指揮を執る英国の対応
3月21日、英国全土のパブやレストランに営業休止を要請し、23日午後8時半には「国家非常事態」(National Emergency)を、ボリス・ジョンソン首相が公共放送BBCで宣言しました。飲食店への休業要請と同時に従業員の給与の80パーセント、月額2500ポンド(約33万円)を上限に補償すると発表した英国政府の初動体制は驚くべき迅速な対応でした。
天皇誕生日宴会の儀から英国に戻って1カ月間、英国では新型コロナウイルス感染症についての詳細な情報や予防策が徹底して報道される啓蒙月間でした。1)感染者の8割は無症状または軽症で済む、2)空気感染はしない、3)飛沫(ひまつ)感染および接触感染予防のため手洗いを徹底すべき、4)重症化した場合の受け皿を確保するため国民保健サービス(NHS)に協力すべき――などの必要な情報が毎日繰り返し報道されました。そんな政府広報の中には、「ハッピー・バースデー・トゥー・ユー」を2度歌いながら、子どもたちがきちんと20秒間、石けんで手を洗うテレビ映像も含まれていました。
クラスター(集団感染)を防止するためにいち早く全国の飲食店の営業休止を決め、その経済対策として、労働者の給与を政府が8割も補償する制度を創設し、同時に発表。重症化の心配は約2割にとどまることを早くから国民に説明しつつ、不要なパニックになる必要はないことを啓蒙し、重症者を受け入れるための緊急病床の確保と人工呼吸器の緊急増産体制を実行。適切な情報提供と非常事態における政府の責務をセットで対応する英国の対応は、冒頭の御言葉に立った信仰的に成熟した国家の対応であったと実感しています。
私が英国で客員として集わせていただいている英国国教会聖ステパノ教会のロレイン・バジャーワッツ牧師は、10代の二男二女のお母さんであり、NHSの元看護師だった方です。医療現場での豊富な経験もあり、早くからアルコールによる手指の消毒や聖餐式の方法を工夫して礼拝を行っていました。また、「使い捨てマスクは感染者の飛沫防止には役立つけど、感染してない人の感染防止にはあまり役立たないのよ」と説明しながら、マスク不足を心配するより、手洗いとせきエチケットが大事であると会衆を導いていました。また、信徒である90代の老婦人は「私たちは2度の戦争を生き抜いてこられたの。今回も主が守ってくださるわ」と、彼女を心配する私の方が逆に励まされてしまいました。
各都道府県任せの日本の対応
一方で私は、日本の対応を英国から妻・百合子の国会事務所とのビデオ会議で日常的にモニターしていましたが、英国との対応の違いを痛感していました。ひと言で言えば、日本政府の対応は「民は由らしむべし、知らしむべからず」という古くから統治者の格言を体現したかのような実態だったと振り返っています。
まず、新型コロナウイルスがどのような感染症を引き起こすのかが不明なまま、これを「指定感染症」に指定しました。これでは、政府は感染者すべてを「感染症指定病院」に隔離・入院させなければならなくなってしまいます。実際には約8割が軽症者だとしてもです。このことから感染者が爆発的に増えてすぐに感染症指定病院が満杯になることは自明の理でした。そこでPCRという感染の有無を確認する検査は抑制的に行われることになります。
日英逆転の1カ月間の日本政府の動きは、今年4月に予定されていた中国の習近平国家主席の来日や7月から予定されていた東京オリンピック・パラリンピックに配慮した抑制的な動きであったと総括する見解が見受けられます。東京オリンピック・パラリンピックは3月24日に延期が決定されます。この直後から、東京都の小池百合子知事などの言説が急速に外出自粛モードに転換されていきました。
英国と同様に飲食業などの営業自粛の要請が行われましたが、日本政府は全国一律の営業補償を決めず、政策決定は後回しにされます。さらに自治体ごとに異なる対応が、限られた地方財源の中で、しかも財政格差の中で実施されています。
緊急帰国と妻の国会活動への合流
英国ではその後、大学も事実上閉鎖となり、図書館などの施設も閉館になったことから、私は3月29日に緊急帰国しました。その後、開会中の妻・百合子の国会活動に合流して、現在に至ります。
帰国時に私は、自宅に長年、糖尿病を患う87歳の実母が同居していることを羽田空港の検疫官に力説し、PCR検査を受診。陰性が確定したので帰宅し、その後2週間の外出自粛期間を経て職場復帰しました。私たちの最初の仕事は帰国者全員のPCR検査の実施を外務省と厚生労働省に申し入れることでした。これはすぐに実現しました。
今回の新型コロナウイルス感染症はまず中国で発生し、韓国や日本などの周辺国で感染拡大が先行しましたが、その後、欧州でも大流行します。この時間差は単純に距離的なこともありますが、人を介して感染拡大するメカニズムを理解することが重要でした。いわゆる「移動の自由」をどこまで容認するかという認識が日本政府には欠けていました。もちろん日本は島国ですから、実は人の移動の自由は船舶や飛行機に限られています。しかし、欧州は英国が欧州連合(EU)から離脱したとはいえ、長年、この「移動の自由」を積極的に拡大する「一つの欧州」という思想が共有されてきたために、地続きでもあるEU内で感染拡大が日本よりも速いスピードで進行したわけです(英仏海峡も海底トンネルでつながっています)。
感染者数や死者数のみを見て、日本政府の対応の方が西欧諸国よりも優れていたと結論付けるほど単純な問題ではなく、日本でも感染者の流入を水際で防止するために入国者全員に対するPCR検査が重要であることを私たちからも政府に伝えたわけです。
続いて大事なのは、感染症法による感染症指定病院への感染者の隔離入院措置が事実上ないがしろにされ、軽症者の自宅療養が誘導される脱法状態に私たちは警鐘を鳴らし続けてきました。せめて自宅療養をするにしても、在宅医療専門医による経過観察を義務付けることを求めたり、重症者さえも受け入れ不能な状況に陥らぬように、緊急病床の確保や人工呼吸器の確保などを英国並みに行うように求めたりしてきました。そんな中で、私たちの住む埼玉県で2人の自宅療養者が立て続けにお亡くなりになったことは、心の痛い出来事でした。今では埼玉県でも自宅療養をやめ、すべてホテル療養を指導していますが、それでも自宅療養を選択される方が多いのが現実です。
新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)も、国と地方の役割分担が不明確な部分がありましたので、関係省庁と協議して特措法の山川改正私案を作成しましたが、これは特措法に関する野党共同提案の流れの中で実現しませんでした。英国では医療従事者を彼らの家族から隔離するために、大学寮などを明け渡して、そこから医療現場に出勤していただくなどの方法が講じられています。実は私の緊急帰国は、そのような英国政府の取り組みに呼応する判断でもあったわけですが、日本ではその必要性さえもなかなか理解されません。
数々の休業補償策なども少しずつ動き出していますが、パートやアルバイト、シルバー人材センターなどからの業務請負で家計費を補って生活しておられる高齢者や主婦、学生がこの補償から漏れたり、営業補償100万円では高額な家賃や人件費が賄えない中堅外食産業なども制度から漏れたりしています。
何が国民にとって真に必要な情報であり、支援策なのか。国家は何をなすべきなのか。この基本的な問いに私たち夫妻は今、直面しています。
今、思うこと・・・
あなたがたは、世界の光です。山の上にある町は隠れる事ができません。(マタイ5:14)
私はここで日本の現政権を批判するつもりはありません。英国のように、戦時ともいえるこの非常事態にプロアクティブな対応ができていなくても、早期に全国の学校一斉休校を決めたことは日本におけるクラスターを阻止できた重要な意思決定だったと評価しているからです。
しかし、必要なことを的確に国民に伝え、政権としての必要な政策を適宜決定し、実行していく政治責任は重いと、私たちも自覚しています。この新型コロナウイルスの感染拡大の裏で、赤木俊夫さんという財務省近畿財務局の職員が自殺した際の手記が報道され、あらためて国民に必要な情報を提供すべき政府の姿勢が問われています。安倍晋三首相ご夫妻が関与を疑われている森友学園への公有地売却事件も、それを訴追すべき検察ナンバー2である黒川弘務・東京高検検事長の定年延長問題も、官邸はそれぞれに関係していないという説明を繰り返しています。こうした中で、黒川検事長は賭け麻雀で辞任に追い込まれました。「山の上にある町は隠れる事ができません」と、良いことであれ、悪いことであれ、事を明らかにされる主を畏れます。
世界各国が新型コロナウイルス感染症の拡大を水際で防止する判断として中国からの入国制限を決定していくプロセスの中で、日本は暗に札幌雪まつりへの観光客の誘致を促す安倍首相のメッセージを在北京大使館が流し続けました。これが北海道での感染拡大の原因であったともいわれています。
天皇陛下の即位後、米国のドナルド・トランプ大統領に次ぐ二番目の国賓として迎えることが予定されていた中国の習近平国家主席の来日と、東京オリンピック・パラリンピックの開催が、わが国の外交上、重要であったことには一定の理解はできます。しかし、そのことで「国民を守る」ために必要なことが後回しにされていたとすると、わが国の政治には大きな改善の余地がありそうです。
さらに片側で現政権は、日本では憲法に「緊急事態条項」がないから、欧米並みのロックダウン(都市封鎖)ができないと主張しています。今回の新型コロナウイルス感染症のパンデミック(感染拡大)を契機に、内閣に非常事態における大権を与える「緊急事態条項」を柱とした憲法改正論議を展開しようとする意向が示されています。
私が今、思うことは、日英の国民はいずれも平和を希求する精神を共有しているということです。国家が、内閣が、憲法に規定される緊急事態条項を根拠とする強制権力を持っていようがいまいが、両国民は国家の緊急事態に冷静に対応できる優れた国民だということです。
そして「主は狩人のわなから、恐ろしい疫病から、あなたを救い出される」の御言葉どおり、神様はそんな私たち国民を救われると信じることができます。ですから私たちは、恐れず信仰に立ち、主が今、私たちに何を見て、何を聞き、何を成せと導いてくださっているのかを祈り求めていきたいと思います。
次の御言葉を胸に、今日も国会活動が続きます。
心を尽くし、思いを尽くし、知性を尽くし、力を尽くして、あなたの神である主を愛せよ。(マルコ12:30)
どうか、私たちの主イエス・キリストの神、すなわち栄光の父が、神を知るための知恵と啓示の御霊を、あなたがたに与えてくださいますように。(エペソ1:17)
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