クリスチャントゥデイは2002年の創立以来、多くの皆様に支えられ、5月20日で満18周年を迎えることができました。これまで長きにわたり、ご愛読・ご支援いただき、誠にありがとうございます。創立18周年を記念して、今年は新型コロナウイルスが世界を席巻している状況を踏まえ、「100年に1度のパンデミック、教会は何を問われているのか?」をテーマに企画を用意いたしました。コロナサバイバー、牧師、神学校教師、大学教授、政治家、ホームレス支援者など、さまざまな立場の方から寄稿を頂きました。第2回は、世界保健機関(WHO)に加盟できず防疫面で不利な立場にありながら、新型コロナウイルスの押さえ込みに成功している台湾から、台湾南神神学院助理教授の高井ヘラー由紀さんによる寄稿をお届けします。
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新型コロナウイルスが「パンデミック」と宣言されてから早くも2カ月が経過した。米国を中心に感染の勢いが弱まる兆しの見えない地域も多い中、台湾ではロックダウン(都市封鎖)することなく通常に近い生活が継続されている。20日現在、台湾では38日間連続で国内新規感染者数ゼロが続き、政府による厳しい防疫措置も少しずつ緩和されつつある。
周知のように、台湾は中国による国際社会に対する圧力のため、国連をはじめとする国際機関への加盟が認められておらず、WHOにも加盟していない。2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した際、台湾はWHOに助けを求めたが、まったく相手にしてもらえず感染を拡大させてしまった。この苦い経験から、台湾政府は自国が世界的な防疫ネットワークの「穴」であり、WHOからの助けを期待できない「国際防疫の孤児」であることを痛感し、以来、パンデミック発生の際に自力で防疫を徹底することができるよう、努力を積み重ねてきた。
具体的には関連する法律を改正し、管轄部署を整備し、自前で各国との防疫上の連携を確立してきた。特に「伝染病予防・治療法」を全面的に改正したことは大きく、これによって自宅隔離強制などの措置を執行する権限が政府に与えられ、フェイクニュースに対する罰則、伝染病医療システムの整備、マスク・医薬品・検査キットなどの防疫物資の備蓄などが可能になった。衛生署を衛生福利部(日本の厚生労働省に相当)に、また衛生署内にあった疾病管制局を衛生福利部配下の疾病管制署に昇格させたことも大きい。疾病管制署は、医療・教育・技術方面の専門家を擁する米国の疾病予防管理センター(CDC)に相当する(陳建仁副総統へのインタビュー、産経新聞、2月27日付)。
台湾が今回、防疫に成功したのは、このようにノウハウを積み上げてきた政府による的確な対応によるものであり、同時に国民や各組織が非常に高い意識を持ち、政府に全面的に協力して防疫に努めてきたことの結果である。
ところで、SARS当時、衛生署長であった陳建仁副総統(5月20日で退任)は、もともと公共衛生学、特に感染症を専門とする学者で、防疫チームのまとめ役でもある。敬虔なカトリック信者でもあり、神への祈りと台湾への愛をもってこの任務に当たっているという(聯合〔れんごう〕新聞網、3月25日付)。このタイミングで感染症を専門とするキリスト者が台湾の副総統であったという事実に、神の台湾に対する特別な計らいを感じずにはいられない。
台湾の衛生当局が、中国・武漢における肺炎発生について察知したのは昨年12月31日。政府は同日中に武漢からの直行便に対する検疫を開始、1月20日に中央感染症指揮センターを発足させ、2月5日より中国からの入国を拒否、3月18日より居留証を持たない外国人の入国を一律拒否するなど、徹底した水際対策を実施。国内に対しては、徹底した情報公開、実名制マスク購入制度の導入、消毒用アルコール販売管理、教育機関への徹底した防疫指導、海外からの入国者および帰国者に対する自主隔離実施とスマートフォンを用いた監視制度など、先手先手で対策を講じてきた。
一方、人が集まる場所でのクラスター(集団感染)発生を防止するため、政府は宗教団体にも協力を要請。台湾最大のプロテスタント教会である台湾基督長老教会(以下、長老教会)は、早くも1月30日の時点で、礼拝時のマスク着用、検温、手の消毒、握手の回避、食事時の衛生上の注意などを各教会に呼び掛けた。他の教派もほぼ同様の措置を取っている。その後、政府は大規模な集会やイベントの中止あるいは延期を諸宗教団体に要請(2月26日)、さらに屋内100人以上、屋外500人以上の集会自粛を要請した(3月24日)。
この動きの中、台北で最大規模の長老教会である雙連(そうれん)教会は、3月15日よりインターネットによるライブ礼拝に全面的に切り替えた。その後、台中旌旗教会(バナーチャーチ、福音派)、台北霊糧堂(ペンテコステ派)、台北真理堂(ルーテル系ペンテコステ派)、台北信友堂(長老派)、台北懐恩堂(バプテスト派)などの大規模教会が3月中にこれに続き、北部では教派や教会の規模に関係なく、全体の1〜2割の教会が全面ライブ礼拝に切り替えた。各種の交わりや会議などもほぼ全面的にオンラインに切り替えたところが多い。
中規模以下では通常の礼拝を継続している教会が多いが、ほとんどが並行してライブ配信を行っている。いずれの教会も出席者が所定の距離を取って座るようにしているほか、1つの空間に100人以上集うことがないよう、教会内の複数空間に礼拝出席者を分散させ、モニターを通して一緒に礼拝するなどしている。
カトリック教会では、3月20日に台北総主教(大司教)が平日および主日のミサなどの活動の全面休止を全教会に呼び掛け、オンラインのミサに移行したが、5月4日より通常のミサを再開した。これは、5月に入って政府が屋内集会100人以下という制限を緩めたためである。今後、いずれの教会も通常の活動を再開していくと思われるが、社会的距離の確保のため、同じ空間に通常の3分の1から2分の1程度の人数しか入れないことを考えると、全面オンライン礼拝あるいはオンライン礼拝中心の態勢はしばらく続くだろう。
オンライン礼拝を行う際の心構えは、台中旌旗教会の指導が参考になる。すなわち、通常と同じ時間帯の礼拝(土曜日、日曜日、第何礼拝など)の時間に、軽く正装し、敬虔な気持ちで礼拝開始10分前に着席、心を整える。公式サイトで事前に週報をダウンロードし、メモを取る準備をする(聖書および賛美歌集の準備が書かれていないのは、すべて画面に表示されるからであろう)。スマートフォンなど気が散るものは身辺から遠ざけ、礼拝中は飲食をしない。この機会に友人を誘って一緒にオンライン礼拝に参加し、オンラインの新来会者情報に記入してもらう。オンライン献金のための準備をし、画面や司会者の指示に従って、オンラインで什一献金(月定献金)や礼拝献金をする。いつもと同じ時間帯の礼拝に参加できなくとも、時間をとって定期的に礼拝に参加する、などである。
献金は画面を通してのクレジットカード支払いや銀行振り込みが多いが、台湾の場合にはロックダウン指示は出ていないので、教会によっては礼拝堂の入り口に設置してある献金箱に献金するという選択肢を含めているところもある。また、オンライン礼拝については、なるべく一人ではなく、教会のセルグループなどの単位で数人一緒に集って参加し、礼拝後の交わりを継続するよう奨励しているところもある。自宅で礼拝する場合、自宅を教会にする心構えで、と指導しているところもある。
新型コロナウイルスによる経済的損害が最小限で済んでいる台湾では、外交部(外務省)が "Taiwan can help, and Taiwan is helping." を合言葉に、日本を含む各国に人道的支援を行っている。教会でも諸外国への支援に関心が向けられており、長老教会では、宣教協力関係がある海外の教会を通して、4月中に大阪、スコットランド、ウェールズ、カナダ、シンガポールなどの医療機関に医療防護用品を寄付した。他教派も募金活動を始めており、霊糧堂などは米国に医療防護用品だけでなく支援金550万台湾元(約2千万円)を寄付している。
国内への支援も始められており、長老教会は同教会系病院において第一線で働く医療従事者や清掃員などを対象に慰問活動を行い、20カ国語以上の言語によるとりなしの祈りグループをオンラインで開設している。今後は、新型コロナウイルスによって困窮している社会層への支援も開始したい考えだ。台北のカトリック聖クリストファー教会は、母国に帰国できず仕事もないために生活が困窮している外国人労働者や留学生を対象に、4月から7月末までの予定で、毎週1回食料品や日用品を無料で提供している。
長引く新型コロナウイルス時代は確かに教会にとっても大きな試練ではあるが、今がデジタルの時代であるというのは何という恵みだろうか。日本の教会はアナログ中心のところが多いが、教会の活動のほとんどはデジタルで行うことが可能だし、デジタルだからこそできることもたくさんある。この機会にインターネットを用いた礼拝や交わりの在り方を整え、互いに対する信仰の励ましだけでなく、インターネットを通してでなければ教会を訪れることがないであろう多くの人々に対して、教会の門戸を思い切り広げてみたらどうだろうか。そのプロセスで、デジタルが得意な若者たちに大いに関わってもらえたら理想的だろう。教会を思い切りオープンな場所にして、今後、困窮者が多く出てくることが予想される社会において、インターネット上でもたくさんの教会がオアシスとして機能できれば、と願う。
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