台湾のキリスト教界に今、リバイバルの波が押し寄せている。南部の高雄市にある「福気教会」で始まった新しい小グループの取り組み「幸福小組」が、教団・教派を超えて広がり、多くの受洗者を出しているという。福気教会では、2017年に初めて年間受洗者が千人を超え、昨年7月には高雄市で幸福小組の国際研修会を開催し、国内外から1万人以上が参加した。
福気教会は1999年、楊錫儒(ヤン・シールー)主任牧師が数十人の信徒と共に立ち上げた。設立してから間もない頃に、楊牧師を含め教会のリーダーら70人で韓国教会を訪れ、セルグループに関する研修などを受けた。それを台湾の国民性に合わせた形に修正し、幸福小組としてスタート。毎年徐々に信徒の数が増えていき、2011年ごろから急激に成長し、17年には教会内に552組の幸福小組が生まれ、その年だけで1040人が受洗した。
幸福小組は、英語で言えば「Happiness Group(ハピネス・グループ)」。従来のセルグループや小グループとの違いは、一言で言うと、未信者・求道者に対する見方だ。昨年10月から幸福小組を始めた高雄市の活石霊糧堂教会で奉仕する日本人の元栄(もとえ)信一牧師は次のように話す。
「世界中の教会にとって主イエスの『大宣教命令』は究極の課題です。その宣教実現のために、各教会はこれまで、未信者や求道者に向かって、どちらかというと『教会に一度来てみて』『聖書を読もうよ』といった具合に、教会側・クリスチャンの目線で宣教してきたといえます。しかし幸福小組は、教会に新しく来る人たちの目線で考えた取り組みです。私たちは教会に対して敷居の高さを感じながら、かつ心に飢え渇きを覚えている人たちを、未信者や求道者とは呼ばず、最高の存在という意味を込めて『ベスト』と呼んでいます」
幸福小組では、まずは何とかして教会に足を運んでもらうために、教会の敷居を取り払うことに重点が置かれている。「聖書研究会でもなく、祈祷会でもなく、礼拝でもない。幸福小組では、『ベスト』が安心できる場所を提供することが最も重要であり、基準は彼らの居心地が良いかどうかなのです。そのことで『ベスト』たちがイエスの愛を体験し、次々と受洗へとつながっていく。これが台湾で今まさに起こっていることなのです」と元栄牧師は言う。
この「ベスト」目線の宣教の聖書的なよりどころは、ヨハネによる福音書1章35~42節だ。洗礼者ヨハネの弟子2人がイエスの元に来たとき、イエスは「何を求めているのか」と尋ねた。「礼拝しよう」とか「聖書研究しよう」と言うのではなく、まずは「あなたは何が一番必要なのか」と聞いたのだ。そして、その時返ってきた答えは「ラビ(先生)、どこに泊まっておられるのですか」というものだった。2人にとって最初の関心事は、神の子羊(メシア)であるイエスから聖書を学ぶことではなく、イエスが泊まっている場所、つまりこれまでずっと一緒だった洗礼者ヨハネの元を離れた彼らが、安心して休める場所だったのだ。
幸福小組では「ベスト」が居心地よく憩え、交流できるよう、具体的には、①歓迎、②自己紹介・アイスブレーキング、③賛美、④救いの証し、⑤メッセージ、⑥祈り、⑦小さなギフトのプレゼント――の順で構成されたプログラムを、1期8回(8週)で年に2期行う。「あなたの真の幸福」「神に出会うということ」など、各回ともテーマが定められており、プログラムすべてがテーマに沿った内容になるようになっている。
福気教会では、幸福小組の参加者のうち、最も受洗率が高いのは高齢者で、実に9割が受洗に導かれるという。「お年寄りは人生経験が長い分、多くの失敗や挫折を経験しており、人に対して慎重で簡単に心を開かないことが多いです。しかし、幸福小組ではお年寄りの受洗率が一番高いのです。それは幸福小組に来て、今までにない安らぎと愛を発見するからです。昨年10月に幸福小組を始めた私たちの教会でも、8週目にして受洗者3人が与えられ、そのうちの2人が高齢者の方でした」と元栄牧師は説明する。
年齢にかかわらず、多くの人が求めているのは愛。「イエスの愛」が教会の人たちを通して、いかに「ベスト」に伝わるかが鍵だ。特に賛美はメッセージ以上に心に響くとし、初めての人でも親しみやすく、覚えやすく、また感動するものを祈りながら決めるという。
元栄牧師が幸福小組の研修会に参加して、最も強く示された御言葉は「あなたは初めのころの愛から離れてしまった」(黙示録2:4)だった。
「私たちクリスチャンも、元はといえばイエスの愛を経験したから受洗したはずです。その愛に満ちたあなたがいて、私がいて、思いやり愛し合うとき、イエスの愛が幸福小組にやってきた人たちの心に湧き上がってくるのです。参加者はプログラム全体の流れの中で、自分が本当に愛されているか、尊重されているかをじっと見ます。もしそこで、私たちの側に『初めのころの愛』がなければ、彼らはすぐにうそを見抜くのです。だから仕える私たちクリスチャン一人一人が、誰よりも、主イエスによって救われた喜びと感謝に、体全体で満たされているかどうかが鍵なのです」
メッセージについては、「固い食物」(説教)でなく「柔らかい食物」(生活の話)であるべきだという。「いくらアイスブレーキングや賛美がよくても、メインのメッセージでつまずくと、『ベスト』の方は翌週から二度と来ません。ですから神学的ではなく、日常の言葉でメッセージを語るようにします。そのためリーダーたちの事前の練習もとても重要です」と元栄牧師は話す。
高雄市の外れにある深水教会は、幸福小組を導入して大きく変えられた教会の一つだ。設立40年余りの台湾では典型的な長老派の教会で、毎週の礼拝参加者は30人ほど。その多くは高齢者と子どもたちだ。毎週の礼拝以外、特に活動らしきものは行っておらず、唯一行っていたのは、クリスマス集会と信徒の子どもや孫たち向けの夏季集会だけだった。
この片田舎にある小さな教会に2015年、一人の女性伝道師が赴任してくる。そして、同じ高雄市にある福気教会の目覚ましい取り組みを目の当たりし、最初は不安を感じながらも、幸福小組を始めることを決める。17年4月から第1期の幸福小組がスタートし、すぐに大きな変化を経験する。3組あった幸福小組に計40人を招くことに成功し、そのうち18人が受洗したのだ。これは過去10年かけて与えられた受洗者の数と同じだった。これを契機に、礼拝出席者は倍以上増え70~80人に。さらに翌18年には300人規模にまで成長した。「これが神の力でなくして一体何だというのでしょうか」と伝道師は話す。
7年前から台湾で宣教し、実際に幸福小組の働きを肌で経験している元栄牧師は、日本の教会に向けて次のように話す。
「実は台湾においても、十数年前までは日本の現状と類似した問題がありました。それは、台湾原住民の教会と華人教会の壁、教団・教派の壁、福音派と聖霊派の壁です。しかし十数年前からこれではいけないと、勇敢に立ち上がった牧者たちの一致運動と、さらにはここ数年来、幸福小組を宣教の手段として福音伝道の突破口にしようとの召命をもって立ち上がった福気教会、ならびにその手法を伝統主義や形式主義を超えて、謙遜に学ぼうとする諸教会のリーダーたちによって、台湾はさらにダイナミックな変貌をとげようとしています。ぜひ、日本のキリスト教界においても、米欧だけでなく、台湾などの近隣諸国で起こっている働きからも学び、チャレンジしてみようというモチベーションが生まれてほしいと願っています」
一方、幸福小組はあくまでも教会への「入り口」。そこから、従来のセルグループや弟子訓練などへとつなげていく。元栄牧師は次のように話す。
「幸福小組は目的ではなく手段なのです。私たちの最大の目的は、イエスの遺言である『すべての民をわたしの弟子にしなさい。彼らに父と子と聖霊の名によって洗礼を授け、あなたがたに命じておいたことをすべて守るように教えなさい』(マタイ28:19~20)なのです。この仕組みが動き出せば、ペテロの説教を聞いてその場で3千人が救われたように、1日で3千人が救われるようなことも起こると期待しています」
4月からは、北部の台北から南部の高雄まで、台湾の多くの教会で今年第1期の幸福小組が始まる。昨年7月の国際研修会では、台湾のクリスチャン人口20パーセントを目指すという目標も打ち出された。台湾に吹き荒れる聖霊の嵐が、北上する台風のごとく、日本に上陸する日も近いかもしれない。
昨年7月の国際研修会には、日本からは沖縄リバイバルチャーチの牧師とセルリーダーたちが参加し、現在も元栄牧師と情報交換しつつ、主にある働きの実を互いに祈り合っている。元栄牧師は、幸福小組に関する日本語での問い合わせにも対応しており、メール([email protected])で受け付けている。