聖書的な世界観で「本当の自由と解放」をビジョンに掲げる
埼玉県の草加駅で電車を降りた。この日はまだ肌寒く、桜はほとんど開花していなかった。草加といえば、草加せんべいで有名な町だ。今回は夫婦共にクリスチャンで政治活動に邁進(まいしん)する瀬戸健一郎氏、山川百合子氏の事務所を訪ねた。
瀬戸氏は元草加市議会議員で現在は公職に就いていないが、政界、キリスト教界共に幅広いネットワークを持つ企業家だ。SNSや講演会でも多くの支持を得ている。一方、妻である山川氏は、現職の埼玉県議会議員。女性の視点から「一人一人」を大切にする政策を掲げる。
クリスチャンの事業家、政治家としてのビジョン
瀬戸氏は、日本人が現在置かれている状況について、旧約聖書の出エジプト記を引用し、「日本人は民主主義を謳歌(おうか)していると思っているが、本当にそうでしょうか。自由と解放がなされているのでしょうか」と問い掛ける。
エジプトに隷属していたヘブライ人たちは、制約された自由の中でもそれぞれに家庭を持ち、食べることに困ることはなかった。しかし、「本当の自由と解放」を求めて、民はエジプトを脱出し、荒野への道を進んだ。
「本当の自由と解放」とは何か。「もちろん米国からの独立や、等身大の日米関係作りも含まれるが、何より今の日本人は、『自分は自由だ』と言うエジプト時代のヘブライ人と同じように感じる。日本人には古来より、聖徳太子の『和をもって尊しとなす』という精神や価値観が根底にある。これは、個より全体を重んじるという文化であるが、それゆえに政治も気が付くと、いつの間にか国のために命を捨てるのが当たり前という考えが蔓延(まんえん)してしまう」
「まずは、一人一人が自立した自由人であり、独立していることが大事。その点キリスト教は、個人と神が関係を結ぶことで、真の自由と解放を手にすることを教える。このようなメッセージは、政治の世界でも必要になってくる。個人が自立しなければ、ともすると個人が国(全体)のためにあると考えるようになってしまう」と語った。
「今の政権は、国に視点が向いており、個人に向いていないのではないか」。個人に目を向けて小さな声を拾い集め、法整備につなげて問題を解決していきたいと熱くビジョンを語った。
「日本人には、全体を重んじる精神が根付いている」。まさに皆が一丸となれるという良い面もあるが、逆にマイナス面を考えると、個人が幸せになりにくいという構造がある。
瀬戸氏は、「日本人が古来美徳としてきた利他と自己犠牲の精神、分かち合いの心は、実は非常にキリスト教的ではないか」と話す。この二つの美徳が日本人を強くしているが、政治の世界では「長いものに巻かれよ」という権力者の思惑に逆らえない結果になっていることを残念がる。(注:利他の精神=仏教元来からの精神の一つ「法の精神や秩序」を重んじる価値観)
山川氏は、「国際協力NGOで働いていましたが、本当に悲惨な国、地域を見てきました。そのような意味では、日本はまだ幸せな方だと思います」と話す。
しかし、経済大国であるがゆえに子どもの貧困や家庭問題、DVなど、隠れた問題は山積している。山川氏は「社会では苦しんでいる人は見えない、隠されてしまっている」と語る。
「あなたのすぐそばで悲しんでいる人がたくさんいるでしょう」というマザー・テレサの言葉を引用しながら、「神様が喜ばれることは隣人を助けることですね」と笑顔で語る山川氏。女性の立場から、県議としてさまざまな問題に丁寧に取り組む中で体感したことを語ってくれた。
「幸せの尺度は人それぞれですから、比べることはできません。1人で抱えている人や、仕組みにアクセスできないでいる人が必ずいます」
政治という場を通じて、一人一人の幸福度を高めるためにはどうすればよいか。例えば、国は少子化対策に取り組むが、いわゆる不妊治療については保険適用外となり、精神的にも経済的にも大変で、実際にはなかなか治療を継続することが難しいのだという。
「何より個人を大切にすることです」。少数派や社会的弱者の抱える問題など、光が当たりにくいところに光を当て、政治の世界で取り組んでいきたいと話した。これは、山川氏の長年の議員経験で欠かせないフレーズだという。
地球的視野、地球的行動を目指して
「地球的視野、地球的行動を目指して」。この言葉は、瀬戸氏が若い頃から掲げるビジョンの一つだ。両氏は共に海外留学の経験がある。瀬戸氏は高校で米国へ渡り、大学在学中には英国に留学している。
一方、山川氏は英国留学で開発学を学び、国際NPOの仕事に就いてインドネシアで暮らした。あらゆる国籍の友達ができ、「根本的に人間はみんな同じだ」ということを実感したという。
2人は留学中に理不尽な差別を経験している。愛という精神とともに、主張すべきことをきちんと主張することの大切さを教えられた。山川氏は、「相手との違いを発見することで、逆に共通点も深く知るようになりました」と語る。
クリスチャンとしての証し
瀬戸氏は18歳の時に米国で受洗したが、長い間クリスチャンであることを伏せてきた。理由は、自分が証しになるような生き方をしていないのではないかという後ろめたさがあったからだという。2001年に市長選挙に立候補するまで、10年間の議員生活の中でも、信仰についてはオープンにしてこなかった。
しかし、市長選を機に堂々とクリスチャンであることを公言すると、市議に戻ってからは、議会での質問に聖書を引用することもあった。
瀬戸氏は、クリスチャンであることを公言できない「隠れキリシタン」が日本には大勢いるのではないかと話した。
Let's make a difference 違いを作ろう!
総合コンサルティング会社の代表を務める瀬戸氏だが、会社のロゴには「違いを作ろう」と英語で表記されている。関わる一人一人が閉塞感から解放され、本当の自由と解放を知ってほしいとの願いが込められている。
「すべてのことは相働きて益となる」(ローマ8:28)との聖句は、自身の活動で使うロゴにも標記されている。聖書の言葉にまっすぐに立ち、「地の塩、世の光」として人々のニーズに幅広く応えたいと願う2人の今後の活躍に期待したい。