(2)「災害」から「復興」へ
a. ダム
ラオス南部アッタプー県で水力発電用ダム「セピエン・セナムノイダム」の補助ダムが2018年7月23日に崩壊し、死者40人、行方不明者66人、罹災民6千人余りと報道されました。このダムは「巨大ナマズや巨大バサなどメコン川水系の生態系を破壊する」「コメの生産地メコンデルタへ肥沃な堆積物の供給を堰(せ)き止め、堆積物の量は3分の2に減る」のです。また日本においても、ダムにより、サケが産卵のために上流まで上れないことをアイヌの人々はうめいています。
ラオスの国章にはダムが描かれています。インフラストラクチャー(infrastructure、略称・インフラ)が急速に展開し、自然に対する乱開発を黙視できません。後世に禍根を残さないように、地球の安全と環境をどのように守っていくか考えるべきでしょう。国章にダムといえば、北朝鮮も同じです。1941年、東洋一の水豊ダムが日米開戦直前に完工しました。当時、日本の統治下にあった朝鮮半島と旧満州との国境(現在は北朝鮮と中国の国境)に流れる鴨緑江(おうりょくこう)に建設されました。もし決壊した場合、日本はどのように賠償するのでしょうか。韓国と異なり、北朝鮮には1円も戦前・戦時下の植民地政策の補償をしていないのです。
世界中、インフラ促進により、砂防ダム、山間ハイウェイのためのトンネル、橋などが行き渡り、自然生態系は脅かされています。防潮堤、防波堤、河川整備などのハードだけでは、住民の暮らし、いのち、財産は守れないことがだんだん明白な事実として露わになってきています。そのことは東日本大震災が証明しました。世界一安全な「防災の町」を誇っていた岩手県宮古市田老地区(旧・田老町)の防潮堤はどうなりましたか。町全体を囲む総延長2・4キロ、高さ10メートルの「万里の長城」と呼ばれた長大な防潮堤でしたが、東日本大震災の津波は防ぐことができず、死者179人、行方不明者6人が出ました。慢心がもたらした悲劇です。防潮堤は役に立たなかったにもかかわらず、建設に絡む巨大利権の前に再建に対する住民の反対意見は、東京大学・東北大学の研究チーム案によってかき消されました。
メディアはダムについてどう捉えているでしょうか。2019年、ダムの貯水量が急増したため、相模川上流の城山ダムなど、5県6カ所で緊急放流が行われました。下流の水位が上がりました。「氾濫の危険は高まるが、ダムを守るためにやむを得ない措置だったのだろう」と、やむを得ないというダム擁護の見解です。
東日本大震災の地震でも、福島県須賀川市の藤沼ダムが決壊。貯水すべてが流出し、下流の集落を押し流し7人が死亡、1人が行方不明となりました。
b. 安全神話の崩壊
福島原発告訴団の団長である武藤類子さんは言います。「人類は、地球に生きるただ一種類の生き物にすぎません。自らの種族の未来を奪う生き物が他にいるでしょうか」と。「被造物は、神の子たちが現れるのを切に待ち望んでいます」(ローマ8:19)。
近代のコンクリートで固めてできた海岸線、世界一安全な「防災の町」といわれた田老地区は津波にのまれました。東日本大震災の津波で、防災のチャンピョンがノックダウンされたのです。安全といわれ続けてきた福島第1原子力発電所の第1・2号機も、メルトダウン(炉心溶融)が発生した後の姿はコンクリートの海辺と同じ風景でした。震災発生翌月の2011年4月から、学習院大学の赤坂憲雄教授は語られました。日本の人口がマックスのときに自然の懐深くにまで押し広げていた海岸線を、またコンクリートで固めて復旧するのではなく、安全が担保されるラインまで撤退しながら、もう一度やわらかく海岸線を再編していくことを提案しておられます。
コンクリートの防潮堤は「泡が出る」と、漁業関係者は歓迎しておられません。「泡」とは海の水質を変えてしまう元凶です。おいしい牡蠣、海苔(のり)、ホヤが育たないのです。
ドイツの神学者ユルゲン・モルトマンは、創世記1章28節を釈義して次のように述べています。
人間は「創造の王冠」ではない。(中略)「最後の被造物」として、人間は、すべての他の被造物に依存している。彼らなくして人間の存在はありえないであろう。だから、彼らが人間のための準備であるように、人間は彼らに依存している。(中略)動物も「命ある魂」と呼ばれるからである(創世記1:30)。(中略)「地を従わせよ」という神の委託が、人間を地から区別している。(中略)「世界」、「天」、「海」を従わせよ、ではない。人間を動物と区別するのは、人間は言葉で動物に名を与えるべきであり、人間の与える名がその名となるべきだということである(創世記2:19)。それはたんなる支配する行為ではない。すなわち、そうすることによって、動物は、人間の言葉の交わりの中に入っていくのである。創造記事の中で、人間と動物の間の敵対関係、動物を殺傷する権利については全く語られていない。人間は調停者に任命されているのである。(ユンゲル・モルトマン著、沖野政弘訳『創造における神 生態論的創造論』新教出版社、1991年、278~280ページ)
2019年の台風19号が通過した後、自宅に大きな被害がなくても、断水などが続いて日常生活を取り戻すことができない地域がありました。大規模な災害を目の当たりにするなどして、ショックで体調がすぐれない人も出ました。「復興」をどう捉えればいいのでしょうか。
c. 台風19号の「復興」
2019年9月9日に台風15号、10月12~13日に台風19号が東日本を縦断しました。水害の規模は想像を超えていました。被災地が広範囲にわたるため、19号上陸の際、千葉県館山市布良(らめ)の住民が避難した市立小中一貫校である房南学園で、15号以来、縁のある被災者たちを訪問していました。ブルーシートが強風のたびに飛び、隣の瓦の破片が飛んで来て、修理した屋根、壁、窓が損なわれていました。ボランティアも足りず、被災者は疲労困憊(こんぱい)の表情を浮かべておられました。
宮城県石巻市渡波(わたのは)地区での農ボランティアで収穫した稲の稲架(はさ)掛けが気になり、10月15日、ポリタンク、ブルーシート、土のう袋などを積んで、福島県いわき市で支縁物資を届けながら、宮城県丸森町に向かって国道113号を走っていました。森を全面伐採して丸裸にする「皆伐(かいばつ)」の跡地から土砂崩落があり、死者10人、行方不明者1人が出ていました。効率重視のため政府が森林皆伐を命じた地域でおびただしい災害が起きていました。一方、伐採されていない周囲の森に崩落の形跡はありませんでした。
オーストラリア・メルボルンの日刊紙「エイジ」の論説委員は、「不必要に木を切り倒す者は有罪者である」と記しています。かつての日本と同様、大事に土地を愛してきた例は、英国、フランス、イタリアなどの地方へ行けばすぐに分かります。
いわき市、丸森町の道路周辺は災害ゴミが山積みになっていました。10月16日、台風19号は関西方面ではなく、関東方面に進路を取り、関東、東北、信州を襲いました。9年前、東日本大震災による地震、津波で家屋、家族、仕事を奪われた石巻地方にも容赦なく爪痕を残しました。石巻市でも3人が亡くなり、住宅の浸水被害は約1万件に及びました。私たちが震災直後から訪問し、「田・山・湾の復活」を掲げて、農・林・漁、沿道整備、傾聴の各ボランティアをしている石巻市宇田川町でも約40戸が浸水し、同市塩富町1丁目では約100戸、同2丁目では約300戸が水害を被っていました。神戸国際支縁機構の石巻支所がある渡波町3丁目に置いてあった車も冠水のためエンジンがだめになり、廃車を余儀なくされました。
石巻市内は2011年の震災により、地殻変動が起きました。45~120センチの地盤沈下ですが、私たちが訪問している渡波地区は約80センチです。1メートルかさ上げしようとしたら、約450万円が必要であり、震災で無職となった人、年金生活者、独居者は、かさ上げせずに生活を余儀なくされていました。もっとも台風19号の時、流留(ながる)地区に住む80代の無職女性は、「チリ地震津波でも浸水しなかった。かさ上げした分、水が入ってくる。雨が降ると聞くと心配だ」と取材に答えておられます。つまり「かさ上げ」による弊害を訴えていました。東日本大震災に伴う地盤沈下で市街地の自然排水が困難になったことに加え、道路のかさ上げに伴い近接地がくぼ地になるエリアが増えたことが要因です。
10月16日に訪問した福島県の高柴(たかしば)ダムは事前の水位調節をしていませんでした。緊急放流したため、計5県の6つのダム(他に、長野県・美和ダム、茨城県・水沼ダム、竜神ダム、栃木県・塩原ダム、神奈川県・城山ダム)の下流で犠牲者が出ました。2017年7月7日、福岡県朝倉市杷木松末(はきますえ)で炊き出しをした際、砂防ダム決壊を目の当たりにして、報告書でダム決壊、放流、越水などについて発信させていただきました。
この水害からちょうど1年後の2018年7月8日、西日本豪雨に襲われた岡山県倉敷市の市立第2福田小学校で炊き出しをしました。倉敷市真備(まび)町箭田(やた)は6メートルを超える水害に遭い、死者59人、行方不明8人の犠牲者が出ました。海岸から10キロ以上離れた内陸での洪水です。河岸の堤防決壊にしては摩訶(まか)不思議です。機構は第4次西日本豪雨ボランティアで訪れた8月7日、小田川、高梁川の上流をさかのぼり、成羽川(なりわがわ)ダムまで行った際、途中でダムの放流にのまれた町々を見て、傾聴ボランティアをしました。真備の水害の原因について裏付けがありました。真備の被害は成羽川ダム放流が原因だと、第4次西日本豪雨ボランティア報告、SNS、ウェブで発信しましたが、どなたも耳を傾けてくださいませんでした。しかし、無視をしておられた真備の住民たちは半年後、国や県、市、中国電力を相手取り岡山地裁に損害賠償訴訟を起こす方針を決めた、と毎日新聞(2019年12月16日付)は報道しています。(続く)
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