数千人が集まった Lee 大学のチャペルアワー。そこでマイクを握っていたのは、学長のポール・コーン氏であった。彼の父親も Lee 大学の学長を務めており、親子2代で大学を支えていることになる。
彼の語りはまるでマシンガンのような早口であった。恥ずかしながら私は一言も分からなかった。最初は英語をしゃべっているのかすら分からないありさまであった。コーン氏が壇上から皆を歓迎し、そしてさらに一段と大きな声でこう言った。「さあ、Voices of Lee(VOL)の登場だ!」
すると学生たちのテンションはマックスになった。割れんばかりの拍手とともに彼らは立ち上がった。そして大きな歓声が巻き起こる中、10数名の学生たちがステージに登場してきたのである。彼らは全員がマイクを片手に持っている。そして・・・楽器奏者は誰もいない。
ステージ下中央にダニー・マーレイ氏が立ち、VOL のメンバーに合図を送る。すると彼らはサッと整列し、息を吸う。そして――魔法の時間が始まった。これを言葉で表現するのは難しいので、下記動画をご覧いただきたい。
こんな感じで一気に30〜40分歌いあげた VOL のメンバーは、颯爽とその場を立ち去って行った。まさに「学園アイドル」である。
チャペルの後、マーレイ氏に誘われて、学外のチキン料理のお店に連れて行ってもらった。小さなレストランだったが、味は抜群。そしてスパイシー加減が半端ない。ヒーヒー言いながら、大きなチキンにかぶりつく幸せを味わった。
マーレイ氏の奥様、デボラさんは何と大学の副学長であった。そして彼女を通して、大学内に唯一ある日本語教室を担当しているアーデン・ジェンセン教授を紹介してもらうことができた。ジェンセン教授は、何度も日本に来られており、東京にあるライトハウスチャーチと懇意にしておられるとのことであった。
さまざまな出会いが与えられ、彼らの顔と名前を覚えるのに必死だった。いずれにせよこういった出会いを大切にし、今後の展開につなげていきたい、そう心から思わされた次第である。
昼食後、VOL のリハーサルが行われる午後4時まで、少し時間があった。そこでどうしても行ってみたい場所があった。それは「ペンテコステ・リサーチセンター」である。ここには、日本では決して手に入らない、米国ペンテコステの歴史資料が数え切れないほど集められているのである。ここに出向き、実際に資料の山の中を歩きたい・・・。研究者であるなら夢のような体験をしてみたかったのである。
伺うと、デビッド・ロベック教授が出迎えてくれた。そして中に案内してもらった。そこには、一般書店で手に入るものから、もはや「古文書」と言ってもいい状態で保管されている資料まであった。手袋とマスクをして入室した部屋に、ボロボロの紙切れ一枚(教会の週報)が箱に入れられて運ばれてきたときには、思わず歓声を上げそうになった。それくらい「マニアックなお宝」だったのである。
ロベック教授と、今後の協力を確かめ合い、その場を後にした。いよいよ VOL のリハーサルである。
案内されたのは小さな教室だった。おそらく日本の大学教室よりも小さいだろう。しかも防音のような特殊な加工は部屋に施されていない。強いて言うなら、その場所が音楽棟であったため、音が漏れても皆迷惑に感じないといったところだろうか。
ポツンと部屋の隅に置かれているのが、アプライトピアノであった。やがて時間になるとどこからか学生たちが集まってくる。思い思いの服装と和やかな雰囲気でウォーミングアップを始める。びっくりしたのは、今回の Lee 大学へ同行してくれたクリス氏を見た学生たちの態度である。日本的な表現で「目がハート」な状態になっている。そう、クリス氏は卒業から10年近くたっていながらも、いまだに VOL にとってレジェンド的な尊敬を集めていたのである。
そこにマーレイ氏が入ってくる。彼もまたにこやかで、教授然とした様子が全くない。だが学生たちを集め、両手をおもむろに左右へ振り出したときから、世界は一変した。VOL の歌声が、魔法のような時間が始まったのである。
幸いなことに、私は彼らの中央に座り、360度周りを囲まれる形でアカペラ演奏を聞くことができた。その臨場感と言ったら!これまた言葉では言い表せないので、こちらの動画をご覧いただきたい。
ボイスパーカッションが腹に響く。ソプラノの高音がいつまでも耳に残る。そして彼らのハーモニーは、まさに「聖霊の風」であった。私と義弟は、いつしか時間を忘れ、次々と繰り出される20人のハーモニーに酔いしれたのであった。
ひと段落して、マーレイ氏が「何か質問はないか?」と尋ねてきた。そこで私は「どうして VOL に入ろうと思ったのか?」と尋ねてみた。すると彼らは皆異口同音に「VOL に入るために Lee 大学に進学した」と答えたのである。
こういうことだろう。例えば、甲子園常連校の野球部に入るためにその高校にするのと同じように、彼らは全米で有名な VOL に入るためにLee大学を選択した、ということである。彼らは音楽的に優れているが故に VOL を目指し、毎年行われるオーディションを受け、16人の一軍メンバ―入りを獲得して、今ここにいるということなのだ。
私は次いで思わずこう発言していた。「近い将来、必ず日本に来てください!」。この言葉はいまだに実現していない。そして今でもその思いは変わっていない。
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