ノルウェー・ノーベル委員会は11日、今年のノーベル平和賞をエチオピアのアビー・アハメド首相(43)に授与すると発表した。国境をめぐる対立により推定で約10万の死者が出た隣国エリトリアとの和平を実現したことなどが評価された。一方、アビー氏はイスラム教徒の父と、エチオピア正教の母を両親に持ち、自身はプロテスタントという信仰の持ち主。首相就任後には、エチオピア正教会内部の分裂でも仲介役を果たして和解を導いている。
軍人出身のアビー氏は、昨年4月に首相に就任。その直後から、内政では民主的で自由な国家を目指してさまざまな改革を実行。さらに外交では、国境をめぐり20年以上前から対立していたエリトリアとの和解のために力強い指導力を発揮した。
特に、1993年にエチオピアから分離独立したエリトリアとの関係正常化は、首相就任後わずか3カ月で実現させた。まず先に国境問題で譲歩する意向を示したアビー氏は、その後エリトリアの首都アスマラを電撃訪問。イサイアス・アフェウェルキ大統領(73)との歴史的会談を実現させ、一気に和平協定の締結までこぎ着けた。
同委はこのほか、アビー氏がエリトリア・ジブチ間、ケニア・ソマリア間の関係修復や、スーダン国内の対立解消など、アフリカの他の地域における平和に向けた動きにも貢献したと評価した。
アビー氏はさらに、世界で最も古いキリスト教会の一つであるエチオピア正教会内部の和解においても重要な役割を担った。同正教会では1991年、政変により教会トップの総主教が国外追放され、暫定政府が新たな総主教を任命。追放された総主教と、新たに任命された総主教それぞれが正当性を主張したことで分裂が続いていた。アビー氏はこの分裂においても仲介役を担い、両総主教側は昨年7月、互いに同等の権威を認め、それぞれに対する破門宣告を撤回するなどして和解に至った。
この和解は、世界教会協議会(WCC)も歓迎した。WCCのオラフ・フィクセ・トヴェイト総幹事は、両者の間を取り次いだアビー氏に書簡を送り、「古い歴史を持つエチオピア正教会の一致は、古い歴史を持つエチオピアそのものの一致の核となる」と、その意義を強調した(関連記事:エチオピア正教会、27年ぶりに和解 福音派の首相が仲介 WCCが歓迎)。
正教会系のメディアによると、アビー氏はプロテスタントの中でも福音派の信仰の持ち主。一方、英エコノミスト紙(英語)はペンテコステ派だとし、所属教派はエチオピア・フルゴスペル・ビリーバーズ教会だと伝えている。公式サイト(英語)によると、同教派は約50年前に大学生らによって立ち上げられた。教会数は約2300で、さらにそれらの枝教会・宣教グループは7千を超える。信者数は約450万人。エチオピアで生まれた独自のペンテコステ派教会だとしているが、国内で3番目に大きな福音派教会だとも表現している。
なお、昨年のノーベル平和賞受賞者の一人であるデニ・ムクウェゲ氏(64)もペンテコステ派のクリスチャンだ。牧師の息子であるムクウェゲ氏は、コンゴ民主共和国(旧ザイール)で婦人科医として働き、性暴力被害を受けた4万人余りの女性を治療してきた(関連記事:ノーベル平和賞受賞、牧師の息子であるデニ・ムクウェゲ医師の信仰)。また昨年は、過激派組織「イスラム国」(IS)から受けた性暴力の実態を世界に発信したヤジディ教徒のイラク人女性ナディア・ムラド氏(26)も、ムクウェゲ氏と共にノーベル平和賞を受賞した。
ノーベル平和賞は、各方面から推薦された候補者の中から、ノルウェー議会によって任命された5人の委員で構成される同委が選出する。候補者名は公表されないものの人数は明かされ、今年は個人223人、団体78組の計301で、これまでで4番目に多かった。今年はスウェーデンの環境保護活動家、グレタ・トゥンベリさん(16)が有力候補として注目されていたが、受賞はならなかった。
授賞式は12月10日、ノルウェーの首都オスロの市庁舎で行われ、900万スウェーデンクローナ(約9900万円)の賞金が贈られる。