2018年のノーベル平和賞は、性暴力被害者の治療に長年携わってきたコンゴ民主共和国(旧ザイール)の婦人科医、デニ・ムクウェゲ氏(63)と、過激派組織「イスラム国」(IS)から受けた性暴力の実態を世界に発信してきたイラク人女性のナディア・ムラド氏(25)に贈られることが決まった。牧師の息子であるムクウェゲ氏はキリスト教徒で、ムラドさんはイラクの少数派であるヤジディ教徒。
ムクウェゲ氏は1999年以降、4万人余りの性暴力被害者の治療を行っており、その功績が認められた。
ノルウェー・ノーベル委員会は、受賞者の発表(英語)で「この種の戦争犯罪を報告し、それと闘うことは、すべての男女、すべての公僕と兵士、すべての国および地域社会、また国際機関の責務である」と、性暴力に対する取り組みの重要性を指摘。ムクウェゲ氏の働きを次のように評価した。
「この分野におけるムクウェゲ氏の忍耐と献身、自己犠牲による取り組みは、あまりにも重要で、言葉で言い尽くすことはできません。集団レイプや女性への性暴力は、戦争の戦略や武器として使われています。ムクウェゲ氏は、コンゴ政府や他の諸国がそれに対する十分な対抗措置を取っていないと訴え、批判し続けてきました」
ムクウェゲ氏は、性暴力の被害女性に再建手術を施す「ドクター・ミラクル」として知られている。フランスで医学を学んだ後、内戦下の1999年にコンゴ東部のブカブに「パンジー病院」を設立して以来、20年近くにわたり、多い時で年間3500人余りの女性を治療している。
当時ベルギー領だったコンゴで、ペンテコステ派の牧師家庭に9人きょうだいの3番目として生まれたムクウェゲ氏は、病人の元を訪問する父に同行したとき、こう尋ねた。「お父さんは病人たちのために祈るけど、どうして薬は上げないの?」。牧師の父から返ってきた答えは「私は医者ではないからだ」だった。この経験が、ムクウェゲ氏を医者への道に進ませた。
昨年5月に開催されたルーテル世界連盟(LWF)の第12回総会(英語)では、主講師として講演し、次のように述べている。
「男性による蛮行の犠牲となった女性たちが、生活の中で神の統治を経験することができるよう、この世を支配するすべての悪魔(性暴力を行う男性を指して)を神の言葉で追い出すことは、マルティン・ルターの後継者である私たちに任されています。
21世紀における福音の信頼性は、私たちが受けた恵みを解放することにかかっています。そのためには、キリストの教会をこの暗闇の世界で輝き続ける光とすることが必要ですが、それは正義と真理、法と自由のための闘い、つまり、男女の尊厳のための闘いを通してなされるのです」
ムクウェゲ氏は、自身が受けたノーベル平和賞を、紛争や暴力で傷ついた世界中の女性にささげると言い、次のように語った。
「女性や少女、幼い女児に対してさえも戦争犯罪が及んでいることを、私は20年近くにわたり故国のコンゴや他の多くの国々で証言しています。私はこの賞を通して世界中にいる性暴力の被害者の方々に語りたい。世界は皆さんの声に耳を傾けており、無関心のままでいることを拒否していると。世界は皆さんの苦しみを前にして、何もせずにいることを拒否していると」
もう一人の受賞者であるムラド氏は、2014年にISに拉致され、「性奴隷」としてISの戦闘員からレイプされたり、暴力を繰り返し受けたりした。ISから逃れた後は、被害女性に対する偏見もある中、自身を含む多くの女性たちの証言に基づき、自身の体験談やISによる女性や子どもたちの取り扱いについて詳細を語り、世界に発信してきた。国連でも演説し、現在、ISの支配下にある被害者たちの解放と保護を求めるキャンペーンを主導している。