米国との国境に近いメキシコ北東部の町で22日、カトリックの神父が教会内で刺され、その後死亡する事件があった。メキシコでは今月、牧師が拉致されたり、銃殺される事件が起こっており、キリスト教の聖職者を狙った犯行が後を絶たない。カトリックの司祭に限っても、この7年間で27人が犠牲になっている。
事件があったのは、米テキサス州と国境を挟んで隣接するメキシコ北東部タマウリパス州の町マタモロス。殺害されたのは、ホセ・マルティン・グスマン・ベガ神父(55)で、マタモロス教区は26日、葬儀の動画をフェイスブックに投稿。声明では、グスマン神父は「既に主の御前にいる」と述べ、支援者らを励ました。
カトリック・マルチメディア・センター(CMC、スペイン語)によると、同教区のユージェニオ・リラ・ルガルシア司教は、「私たちは深い痛みをもってグスマン神父の葬儀に参列しました。有能な捜査当局が真相を解明し、正義を執行するために既に捜査に乗り出しています」と語った。ルガルシア司教は遺族や教会の信者らに哀悼の意を示すとともに、「皆さんにお願いします。グスマン神父の永遠の安息を神にお祈りください」と求めた。
CMCが情報提供者の話として伝えたところによると、グズマン神父は22日午後10時ごろに襲撃され、ナイフで数回刺されたという。情報提供者は次のように語っている。
「教会内で助けを求める叫び声を聞いた近隣住民が駆け付けると、グスマン神父が重傷を負っていました。神父は処置を受けるため、町の総合病院に搬送されました。数分後、神父の死を告げられました」
CMCによると、グスマン神父は今年メキシコで殺害されたカトリックの司祭としては1人目だが、メキシコでは2012年以降、今回の事件を含め27人の司祭が殺害されている。
AP通信(英語)によると、グスマン神父の殺害について、これまでのところ動機に関する直接的な情報はない。
メキシコでは今月18日、南部オアハカ州でプロテスタントの牧師が殺害される事件が発生したばかり。牧師は日曜日の礼拝を終え、教会近くに停車した車の中にいたところ、武装集団のメンバーに至近距離から銃で撃たれた(関連記事:メキシコで牧師射殺、礼拝後の教会前で 犯人逮捕)。
さらに今月3日には、マタモロスから北西に約350キロ離れたタマウリパス州の別の町ヌエボラレドで、キューバ人移民の支援活動を行っていた別の牧師が拉致される事件が発生している。牧師の消息は依然不明で、AP通信によると、牧師が拉致されたのは、キューバ人移民らをかばおうとしたためではないかと考えられている。キューバ人移民には米国に親戚がいる人が多いため、しばしば身代金を目的とした誘拐の標的にされるためだ。
迫害監視団体「米国オープン・ドアーズ」は、キリスト教徒に対する迫害のひどい国をまとめた「ワールド・ウォッチ・リスト2019」(英語)で、メキシコを迫害がひどい39番目の国に位置付けている。それによると、メキシコにおける迫害の一因は、同国政府が組織犯罪を野放しにしていることにある。
「組織犯罪の主な標的は司祭や牧師である。その一方で、地元の権力者らは罰金を科すことでキリスト教徒に圧力をかけており、基本的な社会奉仕を否定し、投獄を免れている」
米国際宗教自由委員会(USCIRF)も、組織犯罪が信教の自由に及ぼす影響について懸念を表明している。
USCIRFは2017年の年次報告書(英語)で、「ロス・セタス」や「テンプル騎士団」などのメキシコの犯罪組織が、カトリックの司祭や他の宗教指導者を狙っているとして、警鐘を鳴らしている。報告書によると、2016年9月にはわずか1週間でカトリックの司祭3人が遺体で発見されている。