短編映画の祭典「ダマー国際映画祭」が10、11の両日、北沢タウンホール(東京都世田谷区)で開催された。事前審査を通過したファイナリストの作品全20作のほか、他の映画祭の受賞作なども上映され、6年ぶりの開催を盛り上げた。最優秀作品賞には、ガーナ出身のラメッシュ・ジャイさんによる「Life!」と、米国人のイアン・エブライトさんが反米感情の強い中東を舞台に描いた「From the Sky」の2作が選ばれた。また、観客賞は長尾淳史さんの「Memories Rewound」に贈られた。
ダマー国際映画祭は、「パッション」や「ナルニア国物語」シリーズの製作に携わってきた映画プロデューサーのマーク・ジョセフ氏らが、2001年に米シアトルで始めた。「ダマー」はヘブライ語で「隠喩」や「たとえ話」を意味する言葉。露骨な暴力描写や性的描写を用いることなく、優れたストーリーで人間の多様な感情や体験を表現する作品を評価してきた。
東京での開催はこれが初めてで、今回は上映作品の約半数が日本人監督によるものだった。「開催地でそれぞれ違うフィーリングがある」と話すジョセフ氏は、「今回は内容がとても深いものが多かった。特に自殺に関する映画が何本かあり、難しいトピックを取り上げていたが、最後には希望を伝えるものだった」と感想を語った。
15分以下の部門で最優秀作品賞を獲得した「Life!」は、ガーナの貧しい村の青年が主人公。家族を支えるため仕事を求めるが、なかなか見つからない。やっとの思いで職を得て懸命に働いても、濡れ衣を着せられ刑務所へ送られてしまう。しかし、家族からは「村の恥だ」「死んでしまえ」と冷たい言葉を浴びせられるだけだった。とうとう自殺を考え、すんでのところまでいくが、思わぬ結末が。作中は重い雰囲気を漂わせながらも、最後の結末で一気に観客を笑わせた。
30分以下の部門で受賞した「From the Sky」は、中東で羊を放牧しながら暮らす貧しい父子をめぐるストーリー。上空を飛ぶ米軍のドローンに不安を感じる息子と、安心させようとする父親。そこに武器を持った2人の男が現れる。米国への敵意を語り、抵抗運動への参加を促す。しかし父親は、平和的な解決を語り応じようとはしない。2人の男が去った後、息子は水をくみに川へ行くが、ドーンという大きな音が。米軍のドローンによる攻撃が父親に命中してしまったのだった。最後の家族を奪われ、当てのなくなった青年は、抵抗運動の男たちの元へ行く。青年は復讐(ふくしゅう)心に燃え、抵抗運動に加わっていくのか。しかし彼は、復讐ではない別の道を選ぶのだった。
エブライトさんは受賞を受け、「日本は初めてですが、この映画祭に参加できただけでなく、受賞することができ本当に光栄です」とコメント。「平和は大切で良いものだと思って育ってきましたが、それが難しいものであると言われたことはありませんでした。この作品では、平和は大切であり良いものだが、また難しいものであるということ、そして時にその難しいと思われる選択が最善の選択であるということを伝えたいと思い制作しました」と、作品に込めた思いを語った。
エブライトさん自身はクリスチャンで、作品はキリスト教信仰に基づいたものだが、それだけではないという。映画の制作チームの中にはイスラム教徒もおり、彼らも自分たちの信仰から同じようなことを分かち合ってくれた。「この作品はそのように、互いの違いよりも、共に分かち合えることに目を向けたものです」
映画祭ではこのほか、米ニューヨーク在住の日系人クリスチャン画家マコト・フジムラ氏をナレーターに、日本の隠れキリシタンを取り上げた「Hidden Christian」や、信教の自由をテーマにした「Dare to Overcome Film 映画祭」の受賞作品「A Different Way」などが上映された。「A Different Way」は、ニューヨーク市警初の女性チャプレンとなったスーザン・ジョンソン・クック氏が、米同時多発テロ(9・11)に向き合う様子を描いたドキュメンタリー。クック氏はこの他、オバマ政権下では信教の自由担当大使も務めた人物で、映画祭には2日とも出席し、あいさつも述べた。
米国発のダマー国際映画祭は、「スター・ウォーズEP6」のハワード・カザンジャンや、「ゴッドファーザー2」のグレイ・フレデリクソンら、ハリウッドの著名な映画プロデューサーが審査員を務めている。米国ではシアトルとロサンゼルスで開催され、日本では2009年から13年まで広島で開かれた。来年も東京での開催が計画されており、今後の予定は公式サイトで発表される。