米プロテスタント最大教派である南部バプテスト連盟(SBC)の倫理宗教自由委員会(ERLC)がこのほど、人工知能(AI)を主要テーマにした声明(英語)を発表した。声明は、最先端技術が提起する実存的かつ神学的問題に触れ、教会もAIに取り組む必要性があるとする考えを示した。
声明は、AIと人間の関係に関する基本的な内容から、「医療」「セクシュアリティー」「データとプライバシー」「安全保障」「戦争」など、計12項目にわたるテーマを扱っており、それぞれ考えの基となる聖書箇所と共に福音的な観点から触れられている。
序文には次のように書かれている。
「クリスチャンは未来や技術の発展を恐れてはなりません。なぜなら私たちは、神が歴史を統治しておられることを知っており、神のかたちに造られた人間に取って代わるものは何一つないことを知っているからです。私たちは、AIがこれまでにない可能性を人類にもたらすことを認識しています。しかしその一方で、知恵や配慮なくしてAIを使用した場合、それによって引き起こされる潜在的リスクがあることも認識しています。
私たちの願いは、教会がAIの分野に積極的に取り組めるよう備えられることです。潜在的な問題が諸教会に影響を及ぼしてしまった後で、それらの問題に対応してもらうことではありません」
声明にはすでに、キリスト教大学の学長や神学校の校長、大型教会の牧師、キリスト教団体の指導者らが署名している。主な署名者には、保守派論客として知られるエリック・エリクソン氏や、米保守派キリスト教団体「フォーカス・オン・ザ・ファミリー」のジム・ダリー会長、米福音派誌「クリスチャニティー・トゥデイ」のマーク・J・ガリー編集長、米リバティー大学のカレン・スワロー・プライアー教授らがいる。
ERLCのクリエイティブディレクターで、現在AIに関する著書を執筆中のジェイソン・サッカー氏は、一早く声明について触れ、AIは人間の繁栄に役立つ可能性があるが、人間の尊厳に対する脅威の最大の原因の一つにもなり得ると述べた。
「(テクノロジーのツールであるAI)それ自体は、聖書のいかなる箇所でも、邪悪だとか悪いとか、非難されていません。邪悪で罪深く、壊れているのは人間の方です」
AI技術の開発は良いことかもしれない。ただしその条件は、一人一人の人間が神のかたちに造られているという理解に基づいており、AI技術が神に栄光を帰したり、隣人を愛したりするために用いられることだとサッカー氏は強調した。
ERLCのラッセル・ムーア委員長は、声明の発表後に行われたクリスチャンポストとのインタビューで次のように述べた。
「私たちに必要なのは、聖書的な思考を持つクリスチャンが、こうした問題に取り組むことです。クリスチャンがこうした問題に取り組まないなら、別の人が別の世界観でその空洞を満たしてしまうでしょう」
ムーア氏はまた、AIと、超人間主義(先進的科学技術によって人間の身体機能を進化させること)や明白な反人間的イデオロギーから生じる諸問題が混同される傾向について、次のように答えた。
「技術産業の人たちのコミュニティーは、教会の交わりや弟子化の働きが届かないところにあると思います。私は、技術業界にいるクリスチャンから孤独だという話を聞きます。人間関係の上で孤独だというだけではなく、彼らが取り組むプロジェクトにおいて思考するための良心を形成するという点においても孤独だというのです。なぜかというと、技術業界のクリスチャンは他のクリスチャンとの接点を持たないからです」
「特定の分野で恐ろしい提案がされていることに気付くとき、私たちはそれを、その分野により深く取り組むための刺激にすべきです」
声明の第1項「神のかたち」では、次のように述べられている。
「われわれは次のことを否定する。被造物の一部分が、あらゆる形態の技術を含め、神が人類にのみ委ねた支配や管理の権限を奪ったり、それに取って代わるために使用されることを。また技術に対し、一定のレベルの人間のアイデンティティーや価値、尊厳、または道徳的判断力が割り当てられることを」
ムーア氏は、意識自体が機械によっても再現され得るという超人間主義の基本的な前提には欠陥があると話す。
「私はそれ(超人間主義)は心配していません。私が心配しているのは拡張現実(人が知覚する現実環境をコンピュータにより拡張する技術)やセックス・ロボットなどのさまざまな技術であり、それらに関する疑問が放置されていることです」
12年前、神学校で教鞭を執っていたムーア氏は、期末試験で神学生たちに尋ねた。トランスジェンダーだと話す人と福音を分かち合うにはどうすべきかと。
「教室にいた学生のほとんどが、これは野蛮で仮想的なひっかけ問題だと考えました」とムーア氏。「それで私は言いました。『そうじゃないさ。君たち全員が、この問題に取り組むことになるんだ』と」
長老派の牧師で、非営利団体「コクリエイターズテック」の創設者であるクリストファー・ベネック氏は、ERLCの声明を称賛した。それは現在のところ、AIに関わる問題に取り組もうとする教団がほとんどないためだ。
「例えば、私が所属するアメリカ合衆国長老教会=PC(USA)は、AIと自動化の問題を単に研究するという議案でさえ昨年の夏、セントルイスで開かれた総会で否決しました。ですから私は、多くの進歩主義の教会がいまだに取り組んでいない領域を、福音派の教会が積極的に取り組むことをうれしく思っています」
しかしベネック氏は、今回の声明は、現在必要とされている事柄の初歩的な内容を繰り返し述べているに過ぎず、技術者からの意見が欠けており、幾つかのテーマについて近視眼的であると考えている。
「例えば、自動化に関してはマッキンゼー・アンド・カンパニーによるこの問題に関する世界で最も優れた報告で、自動化による失業率は2030年までに11~22パーセントになると予想されています。ちなみに、大恐慌中の失業率は25パーセントでした。米国の57パーセントの教会で、教会員数が100人を下回っており、それらの教会の多くが牧師を雇うことに苦労しています。献金が11パーセント減少することは、10年後に米国の教会数を半減させかねません」とベネック氏は憂う。
「ERLCとキリスト教界全般がそれを当面の問題ではないと考えているなら、私たちはいわばロボット駆動のボートを見逃しているのです。重要な問題は次の通りです。将来的に社会が教会を最も必要とするとき、私たちには助ける用意があるでしょうか。それとも、かけらほどしかない教会の権力のために、神学的な見せかけを続けるのでしょうか。私の祈りは、キリストが教えた通り、教会全体が他の人たちを助ける用意ができているように、というものです」