牧師の息子である松本望(1905〜88)により「福音商会電機製作所」として創業したパイオニア(東京都文京区)が、香港の投資ファンドの完全子会社になることが決まった。早ければ3月にも上場廃止となり、投資ファンドの下で経営の立て直しを図ることになる。
パイオニアは25日、臨時株主総会を開き、香港の投資ファンド「ベアリング・プライベート・エクイティ・アジア」(BPEA)から総額約1020億円の出資を受け入れ、完全子会社となることを承認した。今後2年かけ、人員削減や生産拠点の統廃合などを行い、構造改革を進める。
パイオニアの創業者、松本望は1905年、神戸市で牧師の松本勇治の次男として生まれた。関西学院中学校を中退してからは、音響機器会社などで勤務し、37年に国内初となるダイナミックスピーカー「Aー8」の開発に成功。翌38年に「福音商会電機製作所」を設立し創業した。47年には「福音電機株式会社」に改組し、61年に社名を「Aー8」の商標であったパイオニアに改称。セパレートステレオやレーザーディスクの開発、商品化を成功させるなどした。
パイオニアの公式サイトには、78年に電波新聞社より出版された自叙伝『回顧と前身』が全編掲載されており、大きな影響を受けたとする父・勇治の生い立ちなどを詳しく記している。渡米中、寄宿舎で一緒になった松岡洋右(ようすけ、後に外相となる)の影響でクリスチャンとなった勇治は、米国滞在中から路傍伝道をする熱心さで、新婚旅行でさえ徒歩による伝道旅行だったという。
松本望は同書で「直情径行の、まっ正直な性格と信仰。そして体当たりの実践。それでありながら、温かく、広い心の持主であった父。このひたむきさと、独立独歩の精神と、人との交わりの大切さ。そういう生き方を、私は父からの遺産として受けているように思える」とつづっている。
勇治はキリスト同信会に属していたが、「主イエス・キリストを信じる者はみな兄弟姉妹」と、教派を隔てることなく交流し、特に無教会の人々と親交が深かったという。後に無教会の伝道者・聖書学者となる黒崎幸吉や、東京大学総長となる矢内原忠雄に洗礼を授けたのも勇治だった。
この他、松本望の関係者では、弟の頼仁(よりよし)も牧師で「さふらん幼稚園」(東京都町田市)を創設。妹の睦は、牧師の笠利尚(かさり・たかし)と結婚し、夫婦で「武蔵野中央幼稚園」(同武蔵野市)を創設している。