世界的に人気の講演企画「TED(テッド)」の派生イベント「TEDxDoshishaU」が24日、同志社大学の京田辺キャンパス(京都府京田辺市)で初開催された。6人のスピーカーと1人のパフォーマーが登壇し、それぞれのテーマについて語ったり、パフォーマンスを披露したりした。同大神学部嘱託講師で牧師の青木保憲氏もスピーカーの1人として登壇し、「信じられる自分をつくる方法」をテーマに語った。
講演時間は18分 各分野の第一人者が講演
技術・エンターテインメント・デザイン(Technology Entertainment Design:TED)など、さまざまな分野における第一人者が講演を行うのが特徴のTED。イベントの正式名称は「TED Conference」で、TED自体はイベントを主催する非営利団体だ。始まったのは1984年と、34年の歴史があるが、最初は身内のサロン的集まりだったという。しかし、2006年から講演内容をネット配信するようになり、全世界に知られるようになった。ビル・クリントン元米大統領など多数の著名人が講演しており、キリスト教関係の講演者には、故ビリー・グラハム牧師(1998年)や、リック・ウォレン牧師(2006年)らがいる。
講演者に与えられる時間は18分。これが、人間が集中して聴くことのできる最大の時間だからだという。この限られた時間内で、講演者は自身が習得している技術やアイデア、興味を持って追究している分野をプレゼンテーションする。このシンプルな形態がウケ、TEDの「良いアイデアを広めよう(Ideas Worth Spreading)」の精神に基づいて、世界各地で独自に運営されているプログラムが「TEDx(テデックス)」だ。「x」はTEDにしばられず独自に運営されているという意味で、2009年に東京で「TEDxTokyo」が開催されて以来、日本にも浸透しつつある。
大学ではこれまで、東京大学や立教大学、京都大学、北海道大学などで開催されている。大学で行われる「TEDx」には、University(大学)の「U」が付き、「TEDxUTokyo」「TEDxRikkyoU」などとして開かれている。
学生が企画運営する「TEDxDoshishaU」
「TEDxDoshishaU」を企画運営するのは、同志社大学の学生たち。会場には、協賛会社の出店ブースがあったり、講演者と参加者が語り合えるテーブルが用意されていたりと、ちょっとした「お祭り気分」を味わえる演出となっていた。
スピーカーは青木氏の他に、濱田祐太(関西学院大学法学部4年、NPO法人TEAM丹波理事)、井口和之(同志社中学社会科教師)、吉田将太(同志社大学理工学部4年)、高橋野枝(のえ)(女性リーダーシップ提唱者)、永野陽平(同志社大学大学院理工学研究科2年)の5氏。また、飛鳥梅之介氏(同志社大学文学部3年)がパフォーマーとして登壇し、日本舞踊を披露した。
キリスト教用語を使わずに宗教(キリスト教)を紹介
20代前半の若い講演者が多い中、50代の牧師である青木氏が選ばれたのは、企画チームの中に青木氏の授業を受けた学生がいたからだ。学生は「あの授業の雰囲気で話してくれたら」と依頼したという。青木氏は初め非常に驚いたというが、一方でどうしても語りたい内容があったという。それが「日本人の宗教嫌いについて、キリスト教的視点から新たな観点を示すこと」だった。
しかし、TED系のイベントには禁止事項が2つある。1つは、自分が関与しているビジネスの宣伝。もう1つは、自分の信じている宗教の押し付けだ。このルールを聞いたとき、青木氏は逆に「それなら宗教(キリスト教)について語ろう、と決断しました(笑)。押し付けではなく、宗教の肯定的側面を『紹介する』内容にしようと考えました」と言う。そして、一切の神学用語やキリスト教界のみで通用する用語を排除し、一般的な日本語のみで表現する作業から講演の用意を始めた。
「信じられる自分をつくる方法」をテーマに語った青木氏はまず、現代日本でよく耳にする「自分を信じて」「自分らしく」という言葉を取り上げた。こういう言い回しは、学生時代までは大いに称揚される。周りもそれを受け入れ、応援する機運がある。しかし一旦社会に出ると、自分を肯定するのではなく、自分を否定されるという、まったく反対のメッセージを受け取るように強要されることがある。それが近年では、「セクハラ」や「パワハラ」「マタハラ」「アカハラ」などという言葉で表現される形で表れ、メディアをにぎわせている。この「矛盾する社会」に出たとき、必要となるのは一体何なのか。青木氏は、こうした視点から講演を進めていった。
「実は聖書を知りたかった」という参加者も
講演を終えた青木氏は「やはり、こうした一般の企画に『牧師』という肩書を持って出て行くことは必要だと感じました」と言う。参加者からの感想はおおむね好評だとし、「私が伝えたかった宗教(キリスト教)の肯定的側面をしっかりとつかみ取ってくれたようです」と話す。さらに、数人の学生からは「実は聖書を知りたかった」と言われ、早速、来週から聖書の「お勉強会」を始めることにしたという。
「あくまでも大学では、アカデミックなキリスト教をレクチャーしています」と言う青木氏。同志社大学では、創設者の新島襄に関する授業を担当しているが、「神学的な視点で聖書を語るスタイル、このやり方が一番確かだと私は確信しています」と話す。
講演後も、会場に設置されたテーブルでは、青木氏を含むスピーカーやパフォーマーが、押し掛ける学生たちと1時間以上にわたって語り合う姿があった。