イスラム教の預言者ムハンマドを侮辱したとして、冒瀆(ぼうとく)罪により下級審で死刑判決を受けていたパキスタン人女性キリスト教徒、アーシア・ビビさん(47)に対し、同国の最高裁は31日、無罪を言い渡した。ビビさんの裁判をめぐっては同国内で世論が二分し、国際的にも冒瀆罪に対してや、8年以上収監されているビビさんへの人道的観点から非難の声が上がっていた。
ビビさんは2009年、同じ農場で働いていたイスラム教徒の女性たちから、キリスト教徒であることを理由に、ビビさんの使った器は「汚れている」と言われ、その器で水を飲むことを拒否される嫌がらせを受けた。それに対してビビさんは、「私は私の宗教と、人類の罪のために十字架で死んだイエス・キリストを信じます。あなたがたの預言者ムハンマドは人類を救うために何をしたのですか」と応じたという。しかしこの発言がムハンマドを侮辱するものだとし、ビビさんは逮捕され、翌10年に死刑を言い渡された。
英BBC(英語)によると、最高裁は判決で、検察は「本件に関して、十分な容疑があると証明することを全面的に失敗した」と指摘。証拠が不十分な上、適正な手続きが取られていなかったと述べた。さらに、問題とされたビビさんの発言についても、彼女を殺すと脅迫する人々の前で出たものだと付け加えた。
判決は、イスラム教の聖典「コーラン」やイスラム教の歴史について多く言及。最後は、ムハンマドの言語録「ハディース」に書かれている、非イスラム教徒に対して親切に接するよう勧める言葉を引用して終わっている。
ビビさんはこの日、出廷しなかったが、暴動の発生を警戒した警察が、最高裁の周辺を厳重に警備した。ビビさんが無罪となったことで、新たな暴動が発生する危険性もあるという。
BBCによると、ビビさんに対しては数カ国が亡命の受け入れを表明しており、ビビさんは釈放後、海外へ亡命する可能性がある。ビビさんには5人の子どもがおり、娘の1人は以前、AFP通信に対し、ビビさんが釈放されれば「お母さんに抱き付きます。お母さんに会うと泣いてしまうと思いますが、お母さんを解放してくださった神様に感謝します」と話していた。
この事件をめぐっては、ビビさんを公に擁護する発言をしていた地元パンジャブ州の元知事が、自宅で射殺される事件も発生している。裁判は10年に地裁で死刑判決が出された後、高裁での審理は何度も延期され、15年に最高裁に移ってからも審理は遅れた。またビビさんは収監中も、食事に毒を盛られるなどして殺害される危険性があったため、自分で食事を料理することが許可されるなどしていた。