イスラム教の預言者ムハンマドを侮辱したとして、冒とく罪により死刑判決を受けているパキスタン人のキリスト教徒、アーシア・ビビさんが、「思想の自由のためのサハロフ賞」にノミネートされた。同賞は、人権と思想の自由を守るために献身的な活動をしてきた個人や団体を表彰するために、欧州議会が1988年に創設した。
ビビさんは2010年、パキスタンの女性としては初めて冒とく罪により死刑判決を受けた。死刑判決が出てからすでに約7年が経過しており、昨年上告したが、パキスタン最高裁は期日未定で上告審を延期している。
ビビさんは、子ども5人を持つ母親で、一家は住んでいたパンジャブ州の村では唯一のキリスト教徒の家族だった。ビビさんはその村で、イスラム教に改宗するよう繰り返し要求されたという。あるイスラム教徒の女性が、キリスト教を信仰するビビさんを「汚れている」と考え、ビビさんが女性と同じ器を使って水を飲んだことで論争になった。その後、冒とく罪で訴えられたビビさんは有罪となり、絞首刑による死刑判決を言い渡された。
ビビさんによると、女性がキリスト教を嘲笑したとき、ビビさんはこう応えた。「私は私の宗教と、人類の罪のために十字架で死んだイエス・キリストを信じます。あなたの預言者ムハンマドは人類を救うために何をしたのですか」。この発言により、ビビさんはムハンマドを侮辱したと訴えられ、逮捕された。
欧州議会の会派「欧州保守改革グループ」の所属議員であるピーター・ファン・ダレン氏(オランダ)が、サハロフ賞の受賞候補者としてビビさんを推薦した。「ビビさんの裁判には、宗教の自由を表明するためにひたすら忍耐している方々にとって、象徴的な重要性があります」と言う。
パキスタンのアナリスト、カリーム・ディーン氏は、バチカン(ローマ教皇庁)のフィデス通信(英語)に次のように語った。
「ビビさんが置かれている状況の中に、世界のキリスト教徒の状況が見えます。ビビさんの裁判は、基本的人権に関してすべての少数派が直面している不安を悲劇的に表しています」
「(冒とく罪は)少数派に対する国家的抑圧の道具になっています。為政者たちは、冒とく法を改正する勇気とビジョンを持つべきです」
サハロフ賞には今年、ビビさんを含め計6候補がノミネートされた。他の候補者は次の通り。グアテマラの人権擁護家アウラ・ロリータ・チャベス・イクスカック氏、トルコの親クルド人政党「国民民主主義党」(HDP)の共同議長であるセラハッティン・デミルタシュとフィゲン・ユクセクダーの両氏、スウェーデン系エリトリア人の良心の囚人であるダウィット・アイザック氏、ベネズエラの反体制派、ブルンジの人権擁護家ピエール・クラバー・モボニムパ氏。
候補者は今後、今月10日に3人に絞られ、26日に最終的な受賞者が発表される。授賞式は12月にフランス北東部の都市ストラスブールで行われ、受賞者には賞金5万ユーロ(約660万円)が贈られる。
サハロフ賞の名称は、旧ソ連の物理学者で反体制運動家のアンドレイ・サハロフ氏(1921〜89)に由来する。第1回の受賞者は、反アパルトヘイト(人種隔離政策)運動を指導した南アフリカ元大統領のネルソン・マンデラ氏で、これまでにミャンマーの民主化運動の指導者で現在、国家顧問を務めるアウンサンスーチー氏や国連などが受賞している。また、2014年に史上最年少の17歳でノーベル平和賞を受賞したパキスタンの人権活動家、マララ・ユスフザイさんも、前年13年にサハロフ賞を受賞している。