キリスト教徒と他宗教の人々への身の毛もよだつような人権侵害の数々が、欧州連合(EU)の最新報告書「世界の宗教・信仰の自由の状況に関する年次報告書2015」の中で明らかにされた。
同報告書は、宗教的少数派に対する世界的な規模での迫害を終結させるために、政治的、財政的力を行使することをEUに求めている。また、シリアとイラクの絶滅しかかっているキリスト教徒を含め、世界には宗教に対する「かなりの制限」があるとしている。
報告書をまとめたグループの議長役を務める2人の欧州議会議員、ピーター・ファン・ダレン氏とデニス・デ・ヨング氏は、過激派組織「イスラム国」(IS)によるキリスト教徒と他の少数派の苦難を特に強調した。
報告書は、世界53カ国で、宗教、あるいは信仰の自由へ対する世界規模の制限があるとしている。
ファン・ダレン氏は、次のように述べた。「私たちの信仰は、私たち人間の尊厳の核にあるものです。しかし、痛ましいことに、今日、あらゆる人が自分の信仰を保ち、明らかにするという自由を楽しんでいるわけではありません。私たちは、イラクとシリアのキリスト教徒たちがほとんど絶滅しかかっていることを証言しました。インドでは2014年以来、信仰に関係した暴力事件の発生率が150パーセント上昇しています。そして、パキスタンでは、冒とく罪に問われたアーシア・ビビさんへ対する死刑判決という不正が、現在も継続中です。この報告書において、私たちは、EUがこうしたケースの解決を見出すための手助けができる仕方について、実践的な勧告を大まかに述べています。宗教、あるいは信仰の自由は、EUの議題の中でもよりも重要です」
また、デ・ヨング氏は次のように述べた。「遺憾ながら、私たちはEUがその外的行動において、より経済的、地政学的議題を支持し、人権の議題に関してはずっと妥協していることに気付きます。私たちは、EUのガイドラインにおける専門意見と知識の欠如に関して証言しました。特にEUの代表団においての。昨年度の私たちの報告書に示された特に問題のある国々の報告がなされなかったことに、私は特に失望し、今年はそれらの国々に関しての報告がなされるように欧州対外行動庁(EEAS)に求めます」
宗教や信仰の自由が特に懸念されている国々には、530万人の国民の80パーセントがキリスト教徒である中央アフリカも含まれている。同国では3万6千人のイスラム教市民が、キリスト教徒の民兵組織「反バラカ」の市民軍によって包囲された地域に閉じ込められたままである。
同国ではまた、圧倒的にイスラム教徒が大勢を占める元反政府勢力「セレカ」が、継続的にキリスト教市民を攻撃している。2015年には、1〜4月の間に1269人のキリスト教徒が殺害された。
人口1億8千万人の内、イスラム教徒とキリスト教徒が90パーセントを占めるナイジェリアでは、イスラム教徒が多い北部の12州にイスラム法に基づくシャリア法廷があり、非イスラム教徒が冒とく罪や他の違反に問われ、強制的にシャリア法廷に連れていかれ、むち打ちや体の一部切断、石打ちによる死刑などに処せられるケースがあった。
加えて、世界で4番目に恐ろしいテロ集団に分類されているフラニ族民兵は、アルシャバブとボコ・ハラム以上に多くのキリスト教徒を殺害した。今年は既に4千人以上のキリスト教徒が信仰に関する理由のためにナイジェリアで殺されており、2014年11月〜15年10月の間に、198の教会が襲撃され、損壊、または全壊させられた。
1040万人を超える人口のほとんど全てがイスラム教徒であるソマリアでは、アルカイダ系のイスラム武装組織「アルシャバブ」が、「イスラム教から改宗した疑いのある人々、あるいはイスラム教の原理を守ることに失敗している人々を苦しめ、障害を負わせ、殺すことによって」、彼らの教義を強要している、と同報告書は指摘している。1993年以来、ソマリアでは宗教的浄化政策が行われており、アルシャバブは「ソマリアがキリスト教徒から自由になることを欲する」と宣言している。
人口3260万人の大半がイスラム教徒であるイラクでは、キリスト教徒はイスラム教への改宗や、非イスラム教徒へ対する人頭税「ジズヤ」の支払いを強いられ、応じなければ処刑される。そして、同報告書は、2千年の歴史を持つイラクのキリスト教共同体が今、絶滅の危機に直面していると述べている。1990年代には120万人いたとされるイラクのキリスト教徒は、2013年には50万人、15年には26万人にまで減少したとみられている。
人口2730万人のほぼ全てがイスラム教徒であるサウジアラビアでは、政府による制限は、「宗教、あるいは信仰の自由に関して世界の中でも最もひどい侵害」に及ぶ、と同報告書は述べている。同国では、背教や冒とく、「魔術」、また教義に反すれば平和的な行為であっても、死をもって罰せられるべきとされている。
イスラム教徒が人口の99パーセントを占めるイランでは、バハイ教信仰は「政治の派閥」の1つとみなされ、バハイ教徒は政府によって背教者と判断され、市民権を与えられない。バハイ教の共同体のメンバーたちは高等教育を受けることを禁じられ、宗教的施設を建てることも維持することも許されず、社会的な年金制度からも排除されている。
キリスト教共同体もまた、イラン政府による「組織的な迫害」に直面している。2015年2月現在、約90人のキリスト教徒がその宗教的信条と活動のために拘束され、留置所で裁判を待っている。また、留置所では、キリスト教徒に対するむち打ちや身体的暴行が「かなり増大」したという。
人口3550万人の96パーセントがイスラム教徒であるスーダンでは、冒とく罪に問われると、6カ月の禁錮刑やむち打ち刑、罰金刑の処罰を受ける。改宗は非合法ではないが、イスラム教から別の宗教への改宗は、死をもって罰せられるべきこととされている。2011年以来、170人以上の人々がイスラム教徒を改宗させようと試みたとして逮捕されている。15年6月には、ファルドス・アル・トウムさんと他の9人の女性が、ジーパンやロングスカートをはいていたことが、スーダン当局からみだらだと判断され、教会で逮捕されたことを同報告書は述べている。アル・トウムさんは、むち打ち20回と罰金の判決を受けた。
主要な住民がイスラム教徒であるシリアでは、ISによって、キリスト教徒やヤジディ教徒、また他の少数派に対して、「残酷な民族的、宗教的浄化」が行われた。
ISによる宗教的少数派に対する大量虐殺は、時には街全体に及ぶこともあり、欧州議会を含むいくつかの国際機関によって、「ジェノサイド(大虐殺)」と呼ばれた。
2015年の最悪の残虐行為の1つは、シリア中央部のパルミラであった。そこでは、約400人が虐殺され、その多くは女性と子どもたちであった。また、シリア北部のアレッポでは、かつて40万人いたキリスト教徒が現在、6万人にまで減少している。