パキスタン東部のパンジャブ州の学校で8月末、転校してきたばかりの男子生徒が、同級生から殴られ死亡する事件が発生した。男子生徒は学年ではただ1人のキリスト教徒で、イスラム教徒の他の生徒たちに転校初日からいじめられていたという。
亡くなったシャローン・マシさん(17)は、同州ベハリ県ブレワラにある「MCモデル男子公立高校」に転校した有望な生徒だった。シャローンさんの両親は「英国パキスタン・キリスト教協会」(BPCA、英語)に対し、転校した初日の8月25日からシャローンさんはいじめられ、虐待されていたと語った。
シャローンさんは、キリスト教徒に対する蔑称である「チュラ」という名で呼ばれ、生徒の1人からは、「おまえはキリスト教徒だ。生きていたいと思うなら、俺たちと一緒に座ろうなんて思うな」などと言われたとされている。また、シャローンさんをイスラム教に改宗させようとしたともいわれている。そして、転校から3日目の同27日に、シャローンさんは教室で多数の生徒たちに殴られ、その場で死亡した。
事件発生時の教師の対応をめぐっては、情報が交錯している。教師自身は暴力に気付かなかったと話しているが、実際には教師が生徒たちによる暴力を見て見ぬふりをしていたとも伝えられている。しかし、同校の校長は後に、事件は授業と授業の間に起こったと説明。教師は遅れて教室に到着しており、事件発生時にはどの教師も現場には居合わせなかったと話した。校長はその後、解雇された。
生徒の1人、ムハンマド・アーメド・ラナ容疑者は、シャローンさんに対する暴行を認め、逮捕された。数人が暴行に加わったとみられているが、これまでのところ、他の容疑者の名前は挙がっていない。
シャローンさんの母親ラジア・ビビさんは、「私の息子は心優しく、一生懸命働く子で、人当たりの良い少年でした。(前の学校では)彼はいつも教師や生徒たちに愛されていました。しかし新しい学校では、信仰のために生徒たちの標的にされ、私にはとても悲しんでいる気持ちを打ち明けてくれました」と述べた。
「シャローンと私は、彼が毎日受けていた拷問のことで毎晩泣きました。彼は、受けていた暴力について(私に)詳しく打ち明けるだけでした。彼は、他の人たちのことを思いやる子なので、父親を心配させたくなかったのです」
「私の子を嫌っていた悪い子たちは、今、他の誰が息子の殺人に関与していたかを明らかにすることを拒んでいます。しかし神はいつの日か、ご自身の裁きを行われるでしょう」
シャローンさんの家族を支援しているBPCAのウィルソン・チョードリー議長は、「シャローンさんは明るく知的な若者で、輝く未来を期待されていましたが、殺されてしまいました。しかし、再びパキスタンでは、誰が犯罪者であるかではなく、この最も凶悪な犯罪において、罪がないのは誰なのかという議論が行われています」と述べた。
「キリスト教徒はパキスタンで軽蔑され、忌み嫌われています。彼らはいつも迫害の標的となっています。この若い10代のキリスト教徒が学校で殺されたことは、宗教的少数派に向けられた憎悪が、文化的規範と偏向した国のカリキュラムを通じて、国民の大多数に若い時から植え込まれていることを示しています」
「この打ちのめされた家族は、まったく避けることのできた事件のために、ひどい精神的苦痛と闘わなければならないでしょう。キリスト教徒がこのような仕方で標的となり得るMCモデル男子公立高校に対して、不十分な告発しかなされていません。しかし、(キリスト教徒に対する)このような扱いは例外的ではないのです。これは、キリスト教徒がパキスタンの教育制度の中で虐待と暴力に直面することになるという予兆なのです」