ある年のクリスマス、私はマニラの神学校に近いアンティポロの丘にある刑務所を、10人くらいの神学生と一緒に訪問しました。学生たちは被収容者のためにTシャツを作って、お菓子などのプレゼントを準備して行きました。
刑務所の中に入ってみて、その劣悪な環境に唖然(あぜん)としました。風通しがまったくない狭いコンクリートの部屋の中に、被収容者たちが座る場もないほどぎゅうぎゅうに詰め込まれていました。12月とはいえまだまだ暑い現地では、人の汗と汚物の臭いが鼻をつきます。
刑務官たちはこれらの被収容者を人間とは見ていないようなふうで、食べ物もビニールの袋に詰め込んでは無造作に放り投げていました。まるで動物を扱っているような感じでした。
服役している人の中には若い人が多く、まだ10歳くらいと思えるような子どもも一緒に入っていました。ストリートチルドレンとして街でたむろしたり、麻薬を吸ったりしているうちに捕まえられて、ここに入れられるのだそうです。
彼らは1日に1回、狭い中庭に並んでホースでかけられるわずかな水を浴びるのが、自分を洗う唯一の時で、多くの人は不衛生のためにひどい皮膚病になっています。私たち一行は、そんな環境の刑務所の中で集会を開きました。わずかばかりのプレゼントを渡すと、とても喜んでくれました。そして学生たちが、イエス・キリストの誕生の話を絵を使って話して聞かせました。
そんな時、学生の一人でニック・アバッドという青年が、急に驚きの声を発しました。一体何事だろうと思っていると、服役中の人々の中になんと彼のいとこがいたのです。まだ若い青年でしたが、顔色は悪く、ひどい皮膚病になっていました。麻薬に手を出したために捕まったらしいのです。
ニック君といとことは、しばらく隅の方で低い声で話をしていました。その姿を見て私は思いました。ニック君自身も、生育環境が一つ間違っていれば、彼のいとこと同じように刑務所に入っていたかもしれない、と。
しかし、ニック君は家の近くにあった教会に出入りするようになり、まったく違う人生を歩んでいるのです。現在、ニック・アバッド君は神学校を卒業して、この刑務所のあるアンティポロの町で教会の牧師をしています。そして、彼のいとこのような不幸な青年たちのために奔走しています。
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