マニラの神学校の学生たちの中に、特に厳しい状況に置かれている人たちが少なからずいることは、すでに前回書いた通りです。にもかかわらず、前向きにひたむきに歩んでいる人たちから、多くのことを学ばされます。
今回ご紹介したい学生(当時)は、オーラン・バントックというフィリピン人の学生です。彼は、私の教えていた教科をほとんどすべて取りました。どのクラスでも彼は精いっぱいの努力をして、自分の持てる力をすべて出していました。クラスでの発表の時には、準備を十分していることがうかがえました。
しかし、彼には身体的に弱いところがあり、特に学期の終わり頃になると、よく体を壊していました。十分栄養のある食事をしていなかったのかもしれません。病気になって入院している彼の所に、ほかの学生たちを連れて何回か見舞いに行きました。
体は衰弱し切っているし、設備も万全とはとても言えない病院のベッドの上で、彼はよく冗談を言っては笑顔を振りまき、周りの人を笑わせていました。
退院の時、彼の自宅まで妻と一緒に送っていったことがあります。初めて彼が、どんな所に住んでいるのかを知ることになりました。雨の後でぬかるんだ道で靴は泥だらけになり、街灯のない真っ暗い中をやっとのことでたどり着いた所は、台風でも来ればすぐにでも飛ばされてしまうだろうと思われるような、簡素な家でした。
彼には5、6人の弟妹がいました。父親はすでに亡くなっており、体の小さいお母さんがいましたが、病気がちでした。家族はみな、オーラン君を頼みの綱にするほかありません。
その後、オーラン君は無事卒業し、マニラ市内のコールセンターに仕事を見つけることができ、現在はお母さんと弟妹たちを養っています。彼の目標である牧師としては立つことができていませんが、しかし、そうやって家族を養っている彼を見ると、立派に神の働きをしていると思えてなりません。
彼は讃美歌が大好きで、よくチャペルで音をはずしながら、おどけた顔で独唱をしていました。いろんな意味でハンディを背負いながらも、前向きに明るく生きる彼の心の中に、神の愛が息づいていることが伝わってきます。彼を見ていると思わず拍手で応援したくなるのです。
◇