マニラの神学校には常時十数カ国からの学生が学んでいますが、その中でも特異な存在は中国からの学生です。なぜ特異かと言えば、彼女は中国の「家の教会」の出身者だったからです。
「家の教会」というのは政府の認可を受けていない教会で、非公認のグループなのです。中国のクリスチャンは文化大革命の時に迫害を受け、三自愛国教会など政府が認める団体だけが礼拝所を持つことを許可されています。これらの団体に属するなら信仰を持ってもよいということです。
しかし、その団体は政府の厳しい管理のもとに置かれているので、信仰の自由を持つことができませんでした。聖書の内容で信じていいものとそうでないものまで制限されるのです。
そんな中で、政府に認められていないクリスチャンの群れが、自然発生的に各地で「家の教会」を始めたのでした。貧しい農村地域では、1日の労働が終わった後に暗い中を誰かの家に集まって、賛美歌を歌い聖書を読むことによってのみ、生きていく力をくみ取っている人が大勢います。集まっているところを見つけられると、刑務所に送られることもあるようです。
それでも、中国全土で「家の教会」は至る所に生まれて、現在ではその信徒の数が7千万人とも1億人ともいわれています。そして、成長し続けているのです。迫害されても迫害されても、信仰の火は絶えるどころかますます赤々と燃え続けているのです。
そのような家の教会から、マニラの神学校に学生が入学してきたのです。当然、政府に認められていないグループですから、外国の神学校に留学するということは大変な困難を伴いますが、それが実現したのでした。
祖国で彼女は、高校の美術の先生をしていました。鉛筆一本で目を見張るような絵を描きます。英語も大変よくできました。マニラの神学校に在学中に、米国から来ていた学生と結婚。卒業して現在は中国に帰り、中国の農村部の貧しい地域で働いています。中国の「家の教会」の人たちの、パワーにあふれた姿勢には驚きを禁じ得ません。
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