牧師の負担
マーク・メディナ氏は、暫定牧師としてバレー長老教会(アリゾナ州グリーンバレー)を支援している。お陰で同教会は、2016年のローレンス・ラリー・デロング牧師の自殺から回復しつつある。
メディナ氏は、デロング牧師の自殺について話し合う権限を与えられていないが、数十年にわたる他の牧師たちへのコーチングの経験から、多くの牧師たちが「自己分化」(感情と知性を分けること)の仕方が分からないために苦しんでいることに気付いたとし、次のように話す。
「私は対立が多い教会など、さまざまな教会に奉仕していますが、これまで私が奉仕してきた教会は、対立に対処する術を知りませんでした。それは、多くの牧師が対立への対処法を知らないことを意味します。牧師の多くはノウハウを持っていません。あらゆる種類の牧師がそうなのです。
多くの牧師は、聖職者としての客観性を失っています。(問題の中に)がんじがらめになるあまり、脱け出す術が見えなくなるのです。私は多くの人が困難な状況から抜け出すための支援をしてきましたが、ポイントは個人で対処するのではなく、対話ができる環境をつくるスキルを身に付けることにあります。
多くの神学校や聖書大学では、対立に対処する方法や仲介する方法を教えていません。確かに、イエス・キリストの福音を自分の指針にすることはできますが、傷ついた人でいっぱいの教会の中で働いていかなければならないことに変わりはありません。
牧師は、自分自身も傷ついた人間であることを知らなければなりませんし、神に寄り頼み、特定の地域教会を取り扱うスキルを持っていなければならないのです。私がいつも牧師に奉仕している理由はそこにあります」
聖職者が持つさまざまな役割に対する負担に関心を持ってもらおうと、2002年に「聖職者および他の宗教専門家のメンタルヘルス問題」(英語)という報告書が発表された。この報告書に関わった研究者らは、社会福祉が専門のデニス・オースナー氏(ノースカロライナ大学教授)による合同メソジスト教会の牧師らに関する論文を引用している。
オースナー氏は、合同メソジスト教会の牧師2千人を対象に全米規模の調査を行った。それによると、牧師たちは自らの職が価値あるものだと考える一方、過酷な職業であるとも考えている。牧師が担う責任は多様で「教会運営者、教師、説教者、カウンセラー、資金調達者」など、一度にさまざまな役割をこなすことが求められる。「牧師が呼び出されないことはほとんどありません。しかも牧師は、往々にして深刻な悩みを持つ人たちに対処しなければならないのです」とオースナー氏は言う。
カウンセラーとしての役割において「牧師は、米国人数千人のメンタルヘルスに関するカウンセラーとして役割を担っていることが分かっており、牧師が家庭の問題や夫婦の問題、また個人的な危機をまず初めに助ける場合が多い」と、前述の報告書は指摘する。
米国立精神衛生研究所によると、聖職者の元には、メンタルヘルスの専門家の元に来るのと同じくらい、医学的に精神障害があると認められるような人々が、助けを求めて来る可能性が高い。しかし先の報告書によると、1975年から2000年までの期間、宗教専門家250人を対象に、医療、看護、心理学、宗教、社会学の5つの分野で調べたところ、聖職者自身のメンタルヘルスに関しては、プロテスタントの聖職者は仕事に起因したストレスを最も強く受けているにもかかわらず、対処支援のレベルが低いという。
「プロテスタントの聖職者は仕事関連のストレスが最も高い一方、職業上の負担に対処するための個人的支援は最も低いレベルにあった。牧師の中でも、特に独身の牧師は孤独に感じることが頻繁にあり、助けを求めることのできる友人や同僚がほとんどいないことを示した。多くのプロテスタントの聖職者は、(奉仕の)時間を制限したり、自分の弱さを見せたり、教会員に対して正当な怒りを表明したりできないという懸念を表明した」
合同メソジスト教会の牧師のほとんどは、高いレベルの自信を持っているとされたが、研究者らは懸念を示す。「牧師の約6人に1人が、高いレベルの孤立や孤独、恐れ、自暴自棄、怒り、退屈さなどと共に、深刻な落胆の兆候を示した。強い幸福感や個人的適応力を持たない牧師は、霊的成長に関して他者を導く点で苦労することになる」
家庭問題と非現実的な期待
牧会の働きが、牧師の結婚生活に多くの負担をかけることも分かった。往々にして牧師夫妻は、会衆からの非現実的で膨大な期待を満たすことを迫られるからだ。前述の報告書は次のように指摘する。
「牧師のほぼ3人に1人は任命された働きを去っており、その牧師たちには家庭の問題があることが判明した。また、離婚経験のある専門職の中で、3番目に多いのが聖職者である」
回答に応じた合同メソジスト教会の聖職者のうち、約21パーセントがコミュニケーション不足を大きな問題としており、43パーセントが不適切な交わりを挙げた。
「仲たがいが最も頻繁に起こる分野として挙げられているのは、伴侶と過ごす時間の不足、愛情の不足、経済的な問題、子どもと過ごす時間の不足、性的関係であった。夫婦間の摩擦は若い牧師と、仕事や経済面で満足していない人たちの間で最も多く見られた」
また、注目すべき点として、多くの牧師とその家族が「祭り上げられている」ことにより、普通の友情を形成することが困難になっていることが指摘された。このような状況は聖職者の家族に孤独感や孤立感をもたらし、人目にさらされて生活する「見世物」状態を生み出すこともある。そのようにして社会的支援が限定されることで、多くの牧師家庭にストレスがかかっている。
ストレスと性的不品行
米南部バプテスト連盟に所属する教会のうち、南東部6州の教会で牧会する主任牧師を対象とした別の調査では、牧師のストレスの度合いと、牧師による教会員との性的不品行の間に関連があることが示されている。
「高ストレスと性的不品行は強く関係している。複数の要因から慢性的にストレスを受けている牧師は、不品行の大きな危険性にさらされている。例えば、(結婚生活、その他の理由で感情的な痛みや困難があるなどの)個人的危機にあり、特に必要とされるカウンセリングが受けられない聖職者は、特に危険である」
また、「カウンセラーとしてのスキルに自信がない人は、自信を持っている人よりも性的不品行に陥る可能性が高い」という。