京都府は自殺対策の一環として2016年から、3月1日を「京都いのちの日」として制定し、自殺対策の啓発活動を行っている。この日に合わせて浄土真宗本願寺派総合研究所は、宗教・教派を超えた宗教者からのメッセージを集めた冊子『自死の苦悩を抱えた方へ 宗教者からのメッセージ』を制作、約3千部を印刷した。自死で苦しむ人の支援に役立ててほしいという。
約30ページのブックレットは、「死にたいほどの苦悩を抱える方へ」「自死の苦悩を抱える方へ」「大切な人を自死で亡くした方へ」の三つの章からなり、浄土真宗本願寺派、浄土宗、真言宗、真宗大谷派、法華宗、曹洞宗はじめ仏教各派の他、立正佼成会、日本カトリック司教団、日本基督教団、救世軍など、諸宗教の宗教者の計65のメッセージが掲載されている。
中心となってこの冊子を作成した竹本了悟氏(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員・慈光山西照寺住職)はNPO京都自死・自殺相談センターでも活動しており、全国で活動しているさまざまな団体のネットワークを通してメッセージを集めたという。
竹本氏は、「真宗だけでなく、あえていろんな宗教者のメッセージをたくさん載せるようにしました。仏教とキリスト教で違う角度からのメッセージが込められていることにも、とても興味深く感じました。読んだとき、合わない、受け入れられないと感じるメッセージもあると思います。でも多様な価値観が示されていることで、自分に届くと感じていただけることも必ずあると思います。支援の現場でも多様な価値観が大事なのだなと感じます。一つの価値観、それだけが正しいという価値を持つ人が支援を行うと、相手に深刻な苦しみを与えて余計苦しめてしまうことがあります。その意味で、このメッセージを出すときにいろいろな価値観と宗教の立場を横並びで出すことが大事なのではないかと思い、掲載させていただきました。対人支援をしている組織やご遺族のところに配布させていただき、手にとっていただいて、一人でも次に進んでいくきっかけになればうれしいと思っています」と語った。
また宗教者として自殺対策活動に関わってきた経験からこうも述べた。「宗教者が対人支援に必ずしも向いているとは思っていません。誰かには合うけれど誰かには合わないという側面も強い。だから、人が宗教者を見るとき、宗教者はこんな風に考えているんだ、こういう方もいるんだと知っていただくのは、さまざまな立場の宗教者にとっても大切なことなのではないかと考えています。そして何よりも、信仰が何であれ、目の前に苦しむ人がいるときにそれを和らげたいという思いは変わらないのだと思います」
冊子を開いてメッセージを読む。「私も以前、自死を選んだことがあります」「私の友人にも自死した者がおります」「私は身近な友を亡くしました」という文章が目に入る。宗教者でも自身や身近な人が自死するという現実があることに驚かされる。
そして「つらい、つらいですよね」「死にたいほどに、おつらいのですね」と読む者に語り掛けるような言葉でつづられているのも印象的だ。
東日本大震災をきっかけに、被災地や医療現場などで心のケアに当たる宗教者の活動が注目され、「臨床宗教師」という存在も広く認知されるようになった。現在は、東北大学や龍谷大学(京都市)などで臨床宗教師の養成講座が開設されている。受講対象者は、僧侶や牧師から、新宗教の教師までと幅広く、特定の宗教に限定されていない。
2月28日には、やはり京都市で「臨床宗教師」の全国組織「日本臨床宗教師会」が設立された。京都では、京都府と臨床宗教師、京都自死・自殺相談センターの三者が協力したプロジェクト「京風CafedeMonk きょうのモンク」の取り組みも行われた。京都自死・自殺相談センターで活動する僧侶の霍野廣由(つるの・こうゆう)氏に話を聞いた。
「仏教でも、これまでさまざまな教派が自殺防止や自死遺族の支援活動をしてきました。でも私なら『浄土真宗本願寺派の僧侶』というように、ある特定の教派の僧侶としてでは活動する上で難しいという現実もありました。行政の場合、政教分離という問題もあります。でも臨床宗教師として活動するなら、今回のように行政と共に自殺防止のための活動をすることができます。その意味でも、宗教者が社会に関わる上で『臨床宗教師』という存在は意義があると思います」
冊子『自死の苦悩を抱えた方へ 宗教者からのメッセージ』に関する問い合わせは、浄土真宗本願寺派総合研究所(電話:075・371・9244、〒600‐8349京都市下京区堺町92)。