日本聖書協会(東京都中央区、渡部信総主事)は1日、新翻訳聖書の書名を「聖書 聖書協会共同訳」(英語名:Japan Bible Society Interconfessional Version)にすると発表した。先月8日に開催した2017年度第4回理事会で決定した。理事会は大宮溥(ひろし)理事長(日本基督教団)はじめ、風間義信(改革派)、本間義信(ウェスレアン・ホーリネス)、内藤淳一郎(バプ連)、川平朝清(同)、金君植(キム・クンシュク、在日大韓基督教会)、梅村昌弘(カトリック)、深谷松男(日本基督教団)、吉田眞(まこと、救世軍)、石田学(ナザレン)各氏の10人。
「文語訳、口語訳、新共同訳など過去の翻訳聖書の変遷を評価しつつ、これからの日本の教会の標準訳聖書を目指そう」という意味も込めて、これまで仮に「標準訳」と呼ばれていた。今回決まった名称からは、カトリックとプロテスタントの「共同訳」が引き継がれること、また出版社や個人主体の聖書翻訳とは違い、世界的な聖書協会運動における諸教会の協力の中で生み出される典礼用聖書との意味合いが強く感じられる。
現在日本で最も多くの教会で使われている「新共同訳」は、1987年の刊行から今年でちょうど30年目。今から10年ほど前から、次世代の聖書翻訳が検討されるようになった。日本聖書協会では2008~09年にかけて、18の協力教派・団体から派遣された議員による諮問会議を4回開き、その答申を受けて、理事会で09年12月に新翻訳事業を決議し、正式に作業がスタートした。
諸教会から推薦された翻訳者は、旧約が雨宮慧(さとし)氏(カトリック)をはじめとする20人、新約が浅野淳博(あつひろ)氏(関西学院大学教授)など14人。さらに柴崎聰(さとし)氏(詩人、編集者)ら19人の日本語担当や、林あまり氏(歌人)ら40人以上の編集委員による翻訳作業が続けられてきた。
新しい「聖書協会共同訳」はどのような聖書なのだろうか。「翻訳方針前文」によると、「すべてのキリスト教会での使用を目指す」、「礼拝で用いることを主要な目的とする。そのため、礼拝での朗読にふさわしい、格調高く美しい日本語訳を目指す」、「言語と文化の変化に対応し、将来にわたって日本語、日本文化の形成に貢献できることを目指す」、「ここ数十年における聖書学、翻訳学などの成果に基づき、原典に忠実な翻訳を目指す」とある。
「新共同訳」などの翻訳作業から変わったことといえば、これまではすべて手書き原稿によっていたが、今回は翻訳事業支援ソフトが使われるようになったこと。画面上で、聖書の原語や他の翻訳聖書と比較でき、1つの原語がどのような日本語に訳されているのかを管理したり、共観部分を比較して編集したりするなどの作業がしやすくなったこともあり、より速く、より精度の高い翻訳を生み出せるようになったという。
さまざまな教会で使う日本語聖書としてこれまで、「明治元訳」(新約1880年、旧約87年)、「大正改訳」(新約のみ1917年、いわゆる「文語訳」)、「口語訳」(新約54年、旧約55年)、「新共同訳」(87年)があった。この変遷を見ても分かるように、日常使われる言葉遣いの変化や聖書学の進展に対応して、新しい翻訳聖書が30~40年ごとに出されている。
こうした典礼用聖書を刊行している日本聖書協会は1937年に設立されたが(財団法人認可は49年)、その前身はスコットランド聖書協会、英国聖書協会、米国聖書協会それぞれの日本支社だった。そうした各国の聖書協会が150近く加盟している「聖書協会世界連盟」の一員として日本聖書協会は活動しており、聖書翻訳、製作、頒布などを協力し合いながら全世界で進めている。
日本にはもう1つ、主に福音派の諸教会で使われている「新改訳」がある。それは「口語訳」が自由主義神学的(リベラル)であるとし、「聖書は誤りない神の言葉」とする福音派が成長する中で、1970年に初版が刊行された。78年に第2版、2003年に第3版が出され、今年「新改訳2017」が刊行されたばかり。現在、初回印刷部数を超える注文が集中したため、手に入りにくくなっており、来年2月の重刷までしばらく待たされることになる。
「聖書協会共同訳」の諮問会議には、福音派の代表的組織である日本福音同盟(JEA)会員である救世軍やウェスレアン・ホーリネス教団、基督兄弟団、日本アッセンブリーズ・オブ・ゴッド教団からも議員が出ている。また「新改訳」では、日本キリスト改革派教会の翻訳者が多く参加していたが、「新改訳2017」では改革派は加わっていない。
「聖書協会共同訳」は、本文の翻訳が完了した書からパイロット版が頒布されている。現在、新約は全巻、また旧約も「エレミヤ書」を除く預言書、さらに「詩編」などの諸書や歴史書の多くは、パイロット版が日本聖書協会から直接購入することができる(書店での販売はない)。日本聖書協会では、パイロット版を読んだ人からの意見を随時収集し、その声を踏まえて最後の本文調整を行い、2018年12月の発行を予定している。