朝6時半、いつも通り、前日予約をしたラヴラからカリエ行きのミニバスに乗り込んだ。約1時間半後、カリエに到着する。
8時ごろからカリエの街は徐々に賑やかになる。2軒あるレストランは開店をしており、いつものようにそこでコーヒーを飲んだ。この時間、何とも落ち着く、心地よい時間となっている。店が開くと、どこからともなく猫たちも入店し、客のおこぼれや客のいないテーブルや椅子に乗っかり、日向ぼっこや運動(いたずらで机から机を飛び回っている)をしている。
カリエには、相当数の巡礼者たちが集まり出した。すると皆、「ヴァトペディへ行くんだ!」と、口を合わせたかのように言う。
やはり、以前訪れたときに見た修道院長に会いたいのか、話だけでも聞きたいのか、同じ時間を過ごしたいのか、とても人気のようだ。カリエから数台のミニバスが出発し、約1時間かけてヴァトペディ修道院に到着した。
2014年の9月以来の訪問になるので、何かとても懐かしく思えた。アルフォンダリキ(受付)を目指したのだが、正門から巡礼者たちが行列を作るほどのごった返しようであった。
アルフォンダリキに通されると、そこはまるでホテルのロビーのような造りで、担当の修道士がフロント係をしており、名前と許可書を提出した。すると、不思議と近づいて来る1人の修道士の気配を感じた。そう、以前、イコン工房を見せてくれたS修道士が我々を見つけ、「エブロギーテ」とあいさつをしに来てくれたのだ。
「よくいらっしゃいました。再び会えてうれしいです」。部屋へは私が案内しますと言い、個室に案内してくれたのだ。
以前来たときもそうであったが、ここの修道士たちは仕事に対する姿勢が他の修道院とは明らかに違い、人のために、巡礼者のために働いているという姿勢を随所に感じる。受け付けを済ませた巡礼者たちに、修道士たちが丁寧に部屋を案内する姿は、まるでホテルのようであった。
また、祈りの時間、食事の時間もしっかり伝えてくれ、温水シャワーやコーヒーサービスもあり、至れり尽くせり。私は、ここを「ホテル ヴァトペディ」と呼んでいる。ホスピタリティーナンバー1のお薦め修道院だ。
この日は徹夜の祈りのため、夕方の祈りは1時間ほどで終わり、食事となった。ここの食事も素晴らしい。味付けが他の修道院とは格段に違い、質素ながらもエビの出汁をしっかりとり、塩加減も絶妙なのだ。
食後は前回同様、修道院長の周りにたくさんの巡礼者たちが輪になり、話に聞き入る。修道院長は一人一人の話に耳を傾け、祝福を与える。巡礼者たちは皆健やかになり、そして、憧れの眼差し。今この地にいることを心から幸せに思う姿を垣間見た。
徐々に日が傾き、聖堂の周りにたくさんの巡礼者たちが集まり出した。修道士たちもちらほら現れ、そこには、昨日まで一緒にいたラヴラの修道士もおり、祝福に来たということであった。このように祭日の日は、各地の修道院から司祭や修道士が参加し、大勢で祝うことも特徴の1つだ。
日が完全に落ち、シマンドロ(板木)がいよいよ鳴り響いた。ある修道士が1人の老修道士と共に、聖堂に入ってきた。このように自分1人で歩行などが困難な修道士には、必ず1人面倒を見る若い修道士がつくことも、このアトスではよく目にする光景だ。
祈りは徹夜になり、朝まで執り行われることになる。暗い聖堂の中を歩くというのは危険でもあり、また祈りの最中に少し休んだり、トイレに行く場合などは必ず若い修道士が手を取り、共に行動するのが決まりだ。
聖堂に入り切らないほどの参列者。聖堂内はロウソクの光で満たされ、修道士たちの目つきにも力が入る。両翼には修道士や巡礼者たちもスタンバイする。静かに1人の修道士が祈祷書を読み出した。いよいよ始まりだ。
次回予告(9月2日配信予定)
9月7日からキヤノンギャラリー銀座でスタートする中西裕人写真展「記憶〜祈りのとき」についてお話しさせていただきます。お楽しみに。
写真展情報
9月7日(木)より、キヤノンギャラリー銀座にて、中西裕人写真展「記憶〜祈りのとき」を開催します。2015年7月に開催した「Stavros アトスの修道士」の続編となります。ぜひ、お越しください!
<会期>
キヤノンギャラリー銀座 9月7日~13日
10:30~18:30(最終日15:00まで)日、祝休館
キヤノンギャラリー名古屋 9月28日~10月4日
10:00~18:00(最終日15:00まで)日、祝休館
キヤノンギャラリー福岡 10月12日~24日
10:00~18:00 土、日、祝休館
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